2008/01/30 9:14

「人生の旋律」 by 神田昌典

雑誌「GQ」で、日本で一番のマーケッターに選ばれた、
神田昌典さんの第二弾ドキュメンタリー小説である。
2005年に出版されたのであるが、いまになって読むことができた。

この本自体は、ヒット作ではなかったようであるが、内容は濃い。
どうしても神田さんといえば、簡単にすばやくビジネスで儲ける方法を教える人、
という印象をもった読者が多いためであろうか・・・

物語は88歳3ヶ月で生涯を終えるトウタさんが主人公で、物語はすすめられる。
トウタさんは長寿というだけでなく、かなり稀にみる破天荒な人生と、
その人脈と、つぎからつぎへと起こる出来事が、小説などとは一線を画する。
このリアリティーには「事実は小説より奇なり」という言葉さえ陳腐である。

トウタさんは戦前、戦中、戦後と激動の変化の時代を、持ち前のタフさで、乗り越えていく。
乗り越えるだけでなく、ときには大成功し、ときにはどん底の谷底に落とされる。
しかし、そのすべてのなかで一貫しているのは、
どんなときにも、くじけない、逃げない、そして最後の最後まで、
一日一日を丁寧に生きていく、その姿は圧巻ものだ。

あとがきで、神田さんが書いているように、
世間がぼんやりと考える幸せ。それは金銭的成功、贅沢な生活、自由な時間。
そんなものが、決して満足を保証するものではないことを痛感させられる。

「幸せ」とは、いかに生き、いかに死ぬか、という死生観があってはじめて得られる。
死をリアルに感じることができなければ、生もまたリアルに感じることができない。
不幸をきちんと生きなければ、幸福をきちんと生きることができない。
「幸せ」とは、そうした人生のパラドックスの中から、
自分自身が、自分の物語を引き出すこと。

このような、神田さんの持ち前の経営コンサルとしての経験、
かれの人生観もふんだんに盛り込まれて、とても密度の高い作品である。

わたし自身は、物心をついてから、おじいさんとは縁がなく、
老賢者の実体験を聞くことがなかった。
またこんな変化の激しい時代に、古い人の話を聞いたところで、
たいした役にも立たないと思っていたが、
いまさらながら「温故知新」の大切を認識させられたのであった。