北里大学特別栄誉教授である大村智先生が、2015年のノーベル生理学・医学賞を受賞されましたのは大変喜ばしいニュースでした。
大村先生の開発したイベルメクチンは、アフリカや中南米の線虫症に苦しむ人たちを救った偉大な発見ですが、実はこの薬、日本でも恩恵を受けています。
ペットのフィラリア症もそうですが、疥癬という病気の治療にも役立っています。今回は疥癬について触れてみます。

疥癬は、皮膚に<ヒゼンダニ>という虫が寄生して起こる、激しいかゆみを伴う皮膚病です。布団やじゅうたんに生息するダニとはちがいます。
人から人へ感染するため病院や施設内で大発生することがあります。

虫は0.2~0.4㎜の大きさで肉眼では見えません。
卵は皮膚の中で2.3日でふ化します。幼虫は脱皮しながら10日ほどで成虫になり、交尾のあとメスが角質の中をトンネルを掘ってもぐり、毎日2~4個の卵を産みます。ヒトの体を離れると数時間で死んでしまいます。



似たような種類のダニの中に、犬、猫のペットにつく疥癬(犬疥癬、猫疥癬)がありますが、これらの種は人の皮膚に寄生することはなく、ペットに接する人を刺すことによりかゆみ,皮疹が生じます。

[感染経路]疥癬にかかっている人に直接接触(介護、添い寝、等)することでうつります。このため家族内や、病院、宿泊施設内で感染します。感染してからかゆみが出るまで4~6週間かかります

[症状]腹部、外陰部や手(指の間)の赤く固いぶつぶつが徐々に増え、ひどいかゆみがあります。手には虫が掘り進んだトンネル(疥癬トンネル)がみられることがあります。
体力、免疫の弱っている人ではノルウエー疥癬といって全身が厚い痂疲に覆われることがあり、強い感染力があります。



[診断]顕微鏡およびダーモスコピーで皮膚から虫体や虫卵を検出することですが、困難な場合もあります。

[治療]以前は硫黄軟膏の外用や、γ―BHC含有外用剤の外用等でしたが現在ではイベルメクチン内服が主流になりました。

家族が疥癬と診断されたら
虫体は人から離れると数時間で死にますのでお部屋に掃除機をかければよいです。衣類の洗濯も普段通りでよいです。
患者さんに接した後は手を洗います。
同じ部屋に寝るのは避け、タオルの共用も避けましょう。

「塩分を摂り過ぎると高血圧になる。
高血圧の治療では塩分の摂取を控える。
長野県民の平均一日塩分摂取量は 12g/日である。」
ということを よく言われます。
塩分(NaCl)は人間の身体にとって必要不可欠な栄養素、しかし摂取過剰になると身体に悪影響=高血圧を起こします。
人間の身体に必要な塩分量は人体の水分量の約0.85%
人間(成人)は体重の60%は水分なので、体重60Kgの成人なら、体内に必要な塩分量は   60000gX0.6X0.0085=306g
(この塩分量はすでに体内に存在する。摂取と排出が問題!!)
1日の食塩摂取量の目標値は
1日6g未満(日本高血圧学会)
1日5g未満(WHO)
と言われています。

日本高血圧学会減塩委員会よりの提言(2012年7月)では
「高血圧の治療において食塩制限が重要で、日本高血圧学会は1日6g未満を推奨しています。食塩と高血圧との関係はよく知られていますが、食塩摂取量が非常に少ない地域では高血圧の人は見られず、加齢に伴う血圧上昇もほとんどないことが示されています。食塩制限は、正常血圧の人にとっても、高血圧の予防のために意義が大きいと考えられます。
ほとんどの日本人は必要量をはるかに超える食塩を摂取しており、減塩による健康被害は起こりません。しかし、低血圧や起立性低血圧で立ちくらみがある場合など、一部の病態では食塩摂取は多い方がよいこともあります。また、夏に塩分摂取を増やすことは通常は必要ありませんが、汗を大量にかいた場合は例外となります。」
と提言されています。

では塩がどうして高血圧症を起こすのでしょうか?そのメカニズムについて説明します。


  1. 1.塩分には水をくっつける作用があります。塩分を過剰に摂取すると生物は(人間は)その濃度を薄めるために(正常な濃度に戻すために)水分を欲します。これにより血液の量が増え、心臓がより大きな力を必要とするため血圧が上昇します。それに伴い、貯留した塩分や水分を腎臓から濾して排泄するため、さらに血圧が上昇します。

  2. 2.塩分には血管を収縮させる働きを持つ交感神経を緊張させる作用があります。塩分摂取の過剰により、血管収縮が活発になり、血管抵抗が上昇し心臓の負荷が増し血圧が上昇します。しかも、この状態が続くと血管に大きなダメージを与え、血管抵抗が益々増し、高血圧が悪化します。

  3. 3.塩分は血管の中に直接入り込めるため、血管を狭くしてしまいます。

  4. 4.塩分は筋肉を収縮させる働きも持っているため、筋肉で囲まれた血管を収縮させ、結果的に血圧を上げます。


高血圧は人間だけの病気で、動物には高血圧という病気はありません。(人工的なもの、都会のネズミ、飼い猫、飼い犬は別)
キリンのように長い首の動物は数メートル上にある脳まで血液を押上げなければならないので高い血圧を必要としますが、両足を広げ、大地に這いつくばって水を飲み、草を食べる時は、頚動脈の筋肉が収縮して血管を締め上げ、過度の血圧が脳に働くことを防いでいます。
では動物に高血圧が無いのは何故でしょうか?
答えは、塩を食べないからです。草は塩分を嫌い(津波の後の水田の塩害)それを食べる動物の1日の塩分摂取量は人間の50分の1といわれています。実はマグサイサイ族のように塩を摂らない人種がいます。マグサイサイ族の大人の最高血圧は100mmHgで、塩で食品を調理することはありませんが元気に生きています。高血圧とはまったく無縁な生活を送っています。

おそらく原始人にも高血圧は無かったでしょう。
今から1万2千年ほど前に、人類(A)は岩塩を偶然に発見しました。それまで男たちは毎日狩りに出かけ、味気のない生や、焼いた肉を食べていましたが岩塩を見つけたことにより味付けを知りました。また、狩りで得た肉を岩塩と一緒に洞窟においておくと腐らなくなることも発見しました。遠い隣村の友人(敵)はそれを知りません。肉の保存ができれば毎日の狩りは必要なくなります。
やがて隣村敵(B)達は(A)が狩りに来ないことを知ります。そこで様子を調べると、塩にたどり着く、当然(B)達も塩をほしがります。(A)はこの塩[ソルト(英)、ソールト(米)]を敵から守らねばなりません。塩を巡っての争い、これが人類の戦争の始まりです。ソルトを知った人間はそれを守る人間を配置します。ソールジャー(兵隊)の始まりです。そしてその兵隊さんに給料として塩のサラリー(給与)を与えます。朝一番、会えば塩の話がそのまま挨拶になります。サリュート(挨拶)の始まりです。
このように人類は塩分と縁を結び、塩分を好むようになりました。しかし、いくら食物の内容が変わったとしても人間の遺伝子は1万年やそこらでは変わりません。塩分をどんどん取るようになって、腎臓の排泄能を遙かに上回ることになってしまいます。現代人は腎臓の塩分排泄量を増すため、1日に同じ血液を17回も腎臓を通過するようにしました。0.2×17=3.4gという勘定になります。それから、体毛がなくなり、汗腺からもより多くの塩分を出すようになりました。 それでも間に合わない場合は、「血圧を上げて、塩を濾し出すしかない」という結果にたどり着いたのです。血圧が上昇すれば、腎臓がもっと酷使されるという悪循環に陥ります。
以上の理由より、塩分摂取 1日6g未満 はとても重要なことです。

冬も本番。暖かいものが恋しい季節です。
日頃おなじみの暖かなグッズにも意外な危険が隠れています。

ホットカーペット、湯たんぽ、ファンヒーター、暖房便座、
カイロは上手に使えば快適ですが、ときに熱傷をおこすことがあります。熱さを感じないで皮膚に長時間触れるために、熱傷が皮膚の奥深くまで到達してしまいます。

また飲酒の後、ファンヒーターの前で寝てしまったり、便座の温度調節をしないまま(できないまま)長時間すわっていたり、といったことが原因になる事例もあります。
初め表面には変化がないので、手当てが遅れることもあります。皮膚の奥深くまで傷つけられるので痛みもひどく、治るのに時間がかかります。

暖かグッズは正しく使い、もし、やけどになってしまい、なかなか治らないときには早めに受診しましょう。

日焼け止め(サンスクリーン剤)をつける第一の目的は強いサンバーンを避けるためです。レジャーで海や山へ行く時には強いものが必要ですが、日常生活で光老化を避けるため位ならさほど強いものは必要ありません。日焼け止めにはSPFという数値があります。ヒトはなにもつけないで日光に当たると、20分で皮膚が赤くなりますが、たとえばSPF10の日焼け止めをつければ、20×10分=200分赤くなるまでの時間を延ばしてくれます。目安としては、商品にも表示がありますが日常生活では5、軽い屋外活動、ドライブなどでは10、晴天下のスポーツ、海水浴などでは20くらいのものがよいとされています。

気をつけなければいけないのは塗る量です。塗り方が少なければ効果が半減します。また水泳や、汗で流れたり、顔を触ることでとれてしまうことも多々あります。耐水性のものを3時間に1回くらい塗り替えるほうが確実です。それではSPF値が高いものであれば多少とれても効果がありそうですが、あまりに高い数値のものは皮膚に負担も多くなります。やはり状況に応じて適当な強さのものを、きちんと塗るほうが良いでしょう。

塗る場所として顔はもちろんですが、意外と忘れやすいのはうなじや、耳たぶ、胸、首、手の甲です。これらの部位にもきちんと塗りましょう。

なお、夜にはきちんと専用のクレンジグなどで洗い流すことが大切です。

日本人女性の臓器別がん罹患数ー1975年〜2005年の推移ー

上のグラフは日本人女性の臓器別がん罹患数を示しています。
乳がんは1998年から胃癌を抜いて日本人女性がかかる一番のがんになりました。そして2007年の統計ではその罹患数は56289人となり、日本人女性の約16人に一人は乳がんになる状態まで乳がんは増えています。

日米英の罹患率・死亡率の比較

次のグラフは日本、アメリカ、イギリスの乳がんに罹る割合・および死亡率を表したものです。左の罹患率を示したグラフではアメリカ、イギリスの罹患率がはるかに日本より高いことが分かります。しかしこの2カ国は1996年頃から罹患率の低下が見られ日本だけ増加の一途をたどっています。右の乳がん死亡率を示したグラフでも同じ傾向が認められ1990年をピークにアメリカ、イギリスの乳がんによる死亡率が低下しているにもかかわらず日本は増加しています。これはアメリカ、イギリスとも乳房検診の受診率が1980年代から上昇したことと深く関係しているとされています。


最後のグラフは乳がんに罹ってしまった女性の死亡数を示したグラフです。乳がんに罹る前に検診を受けず、罹った後にも再発防止の治療を受けなかった方が青い線で、検診のみ受けた方が緑の線で示されています。たとえ乳がんに罹ってしまった場合でも、検診を受けた人のほうが死亡率が低いのは検診により早期に発見されるがんが多いからと推測されます。このグラフからも乳癌検診の重要性がおわかりになると思います。

先ほどもお示しした様に、現在日本人の16人に一人は乳がんに罹ります。触っても分からない早期のがんを、超音波検査やマンモグラフィを用いて発見するのが乳房検診の目的です。是非、年に一度乳がん検診を受けて下さい。

プロフィール
長野県塩尻市にある清水外科胃腸科医院のスタッフブログです。

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