2011/11/20 6:44

ロタウイルス:冬~春に流行の感染性嘔吐下痢症、ワクチン早めに
毎日新聞 2011年11月20日 東京朝刊

 ロタウイルス感染を予防するワクチン「ロタリックス」が、21日から各地の医療機関で接種できるようになる。ロタウイルスは冬から春に流行する感染性胃腸炎の主な原因となる。病気の特徴やワクチン接種の注意点をまとめた。【田村佳子】
 ◇重症化を予防/国の承認、生後6カ月まで

 東京都中央区の熊本真由美さん(44)は7月、鹿児島県内の実家に里帰り中に、妹(41)の次男(1)のロタウイルス感染に遭遇した。幼稚園児の長男(3)が2日ほど嘔吐(おうと)・下痢を繰り返し、治ってほっとした直後に次男が朝食を吐き、ひどい下痢が始まった。

 地元のこども病院を受診し、吐き気止めの点滴を受けても嘔吐。その日の夕方には別の救急病院に入院した。本人はぐったりして泣く気力もなかったという。「下痢が1日10回以下になれば退院」と言われたが回復は遅く、8日目にようやく退院できた。

 その間、妹を中心に交代で看病し、熊本さんは便で汚れた衣類の消毒・洗濯、妹夫婦の弁当作りや長男の世話にも追われた。「小さな体に点滴が痛々しかった。入院中は自営業の妹夫婦の生活もめちゃめちゃだった」と振り返る。退院後に妹らも感染した。

 「ワクチンがあるなら勧めたい。重症化したら本人も家族も大変です」

     *

 ロタウイルスの感染症は「嘔吐下痢症」とも呼ばれるように、嘔吐と下痢を繰り返す。便が白っぽくなるのも特徴だ。感染力が非常に強く、10個以下のウイルスでも発症する。患者の便や吐しゃ物1グラムには最大1兆個のウイルスがあり、保護者や保育園内に感染が広がることも多い。

 感染性胃腸炎の原因ではノロウイルスが有名だが、「ロタの方が症状は重い」と日本小児感染症学会の田島剛理事は話す。5歳までにほぼ全員がかかり、初めの感染時の症状が重くなりやすい。ワクチンは重症化を防ぐとされ、効果自体は約3年間続く。

 WHO(世界保健機関)はロタウイルスワクチンを「すべての子どもに接種を勧める」としている。衛生状態の良い日本ではその怖さが軽視されがちだが、毎年10人弱の死亡が報告され、2万~7万人強の乳幼児が入院していると推計される。

 同学会理事長の森島恒雄・岡山大学教授は「年間約1000例の急性脳炎のうち、ロタウイルスによるものは約40例。うち4%が死亡、38%に寝たきりなど重い後遺症が出ており、インフルエンザ脳症に比べても予後が良くない。ロタはけいれんを起こしやすく止めにくいこともあり、発症を防いだ方がいい」とワクチン接種を勧める。

     *

 ワクチン「ロタリックス」は生後6週から接種が可能。弱毒化した生ワクチンの液体1・5ミリリットルを、中4週間以上空けて2回、口から接種する。

 発売元のグラクソ・スミスクラインによると、国内では約500人に臨床試験を行い、2歳までにロタウイルス胃腸炎の発生を8割、重症化を9割以上減らした。接種後30日間の副作用の報告で多かったのはぐずりや不機嫌の37件、下痢18件、せきや鼻水17件。偽薬(プラセボ)を与えられた257人と比べると、副作用が有意に違う点はなかった。接種直後に胃腸炎を発症したとみられるケースは臨床試験でも海外の利用例でもないという。また、ベルギーではロタウイルスワクチンが定期接種に導入され、8割以上が接種を受け、流行が大きく抑えられた。

 注意すべきなのは、遅くとも生後5カ月までに接種開始が必要なことだ。過去に海外で使われた別のワクチンが腸重積(腸管の一部が腸管に入り込む病)を起こす可能性を指摘されたため、このワクチンは腸重積の自然発生が増える生後6カ月までしか国の承認を得ていない。それ以降は原則接種できず、接種を強行しても副作用が起きた場合に国の補償を受けられない

 また、生ワクチンの接種後4週間はほかのワクチンが接種できないため、重症化しやすい髄膜炎を防ぐためにも「日本小児科学会などが勧めるように、生後2カ月でヒブ、肺炎球菌ワクチンなどとの同時接種を行うのが標準的な方法」と森島教授は勧める。

 国が行う定期接種ではないため、費用は原則、自己負担だ。病院によって多少異なるが、1回1万数千円と予想される。北海道幌加内町のように公費補助の方針を示す自治体は少ない。田島理事は「自治体や家庭の財政力によって、接種を受けられる子と受けられない子が出るのは明らかな問題。ほかの任意接種ワクチンとともに、国による無償の定期接種に切り替えるべきだ」と訴えている。