職人のひとり言
2010/11/03 20:38

 「幻の蕎麦」

 もう、ずいぶん前の話になりますが、私が中学生だった頃

今の天皇陛下が皇太子の頃、浅間温泉のある旅館に宿泊したことがありました。
その節、当店の蕎麦を出前で召し上がって頂いたことがありました。

 その時の蕎麦を私も味見させてもらいました、

舌の上でとろけてしまいそうな、上品でやさしい味・・・
いままでに食べたことのない、忘れられない味でした。

 最近になって、親父さんにその時の蕎麦の話を聞きますと、
「別に特別な蕎麦じゃない、普通の蕎麦だったと思う」と言う。

 しかし、今でも私はあの時の蕎麦の味は、

もう一度食べてみたい幻の味であり・・・

いつの日か作ってみたい幻の蕎麦である。



 「普通の蕎麦」

 まだ、私が蕎麦を打ち出して数年の頃だったと思います。

 その頃、当店の職人だったシゲちゃんが調理場から店内の一点を見ていた。
そこを通りがかった私は「シゲちゃんどうしたの・・・」と聞いたら、

 いやー「俺も何十年この仕事をしてきたが、あんなに見事に蕎麦を食べる
お客さんに出会ったのは初めてだ」と見入っていた。

 私も、そのお客さんの蕎麦を召し上がっている姿に目を奪われました。

「蕎麦を食べるリズムが一定で無駄がないんです、流れるように自然で、
美しいんです」私は思わず、お客さんに声をかけてしまいました。

 「お蕎麦はいかがでしたか?」

すると、う~ん、と首をひねって・・・

「そうだな~ここの蕎麦は、生まれて初めてここの蕎麦を食べて、

 そして、あちこちでいろいろな蕎麦を食べて・・・死ぬ前にもう一度

 ここの蕎麦を食べて死にたい!」そういう蕎麦だな~と 一言。

 「ごちそうさま!会計して下さい」 そして、二~三歩 玄関の方へ歩いたあと・・・

「あなたは真面目に仕事をしていますね! 私はこういう普通の蕎麦が
あってもいいと思う。頑張って、これからも蕎麦を作り続けてください」と言って・・・

 颯爽と玄関の戸を開けて去って行きました。


 私は、先程言われたお客さんの言葉に、ガーンと頭を殴られたようで
しばらくの間金縛り状態で、お客さんの名前を聞くことも考えられませんでした。

 私は、この時から「普通の蕎麦を作り続けていきたい」 と、心に刻みました。


                             べん

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プロフィール
手打ちそば あるぷす 四代目店主 齊川 洋です。
このブログでは、『そば』について、私が日々感じることを書いていこうと思います。

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