カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>

 王ヶ鼻から王ヶ頭へは、車も通れる広い道やハイキングコースもあるのですが、環境レンジャーの方のお薦めに従って往路と同じくアルプス展望コースを戻ります。教えられた王ヶ頭の真下から20m程の急坂を登ると、両側には鹿害から守る電気柵に囲まれたお花畑が拡がり、ちょうどマツムシソウが見頃を迎えていました。

 そして王ヶ頭に到着。2034mの山頂で、幾つかピークがある美ヶ原の最高地点です。
天気が良ければ御嶽山が良く見えるので、江戸時代に盛んだったという御嶽教の山岳信仰の山として御嶽神社が祀られ、王ヶ頭の頂上碑と隣り合う様に幾つかの石塔や石仏が建てられていました。
ここには宇宙基地の様に幾つもの県内放送局のTV塔が建てられていて、横には標高2000mの“雲上のホテル“「王ヶ頭ホテル」が建っています。このホテルは、雪に覆われる冬期間も含め通年営業しており、松本駅からホテルの4WDのマイクロバスでの送迎があるため、雲海やご来光、星空観察だけではなく、冬のスノーシュー・ツアーも人気だとか。
しかし目の前に建つ近代的なホテルの出現に、場違いな登山気分は一気に吹き飛ばされて、ホテル周辺は観光ムード一色・・・。すぐ近くにある高原美術館や山本小屋までビーナスラインを通って自家用車でアクセス可能ですので、そこからハイキング気分でここまで歩けば、老若男女、誰でも気軽に来ることが出来ます。
また、ホテルの宿泊客以外も、麺類やカレーなどのランチを食べることが出来ますし、外には無料のベンチも幾つか設けられており、持参したお弁当を食べている小さなお子さんの家族連れや若いカップルのハイカーなど、たくさんの観光客の皆さんがおられました(但し、個人的には絶景の王ヶ鼻での昼食の方が断然お薦め!)。なお、ホテルのトイレは無料ではなく、日帰り客は環境協力金(寄付金)が必要です。
 王ヶ頭からは柵で囲まれた牧場の中を歩いて、初夏から秋まで麓から来て放牧されている牛を見ながら、シンボルである「美しの塔」から「塩くれ場」を経て、「百曲り園地」からまた百曲りを三城へ下ります。
思い思いに草を食んでいる牛を見ながら、平らな台地を人間もノンビリと歩いています。それにしても2000mの天空に拡がる溶岩台地に、尾崎喜八『高原詩抄』第47編(昭和17年刊行)「美ガ原溶岩台地」に正に同感。

   『 登りついて不意にひらけた眼前の風景に
     しばらくは世界の天井が抜けたかと思う。
     やがて一歩を踏みこんで岩にまたがりながら、
     この高さにおけるこの広がりの把握になおもくるしむ。
     無制限な、おおどかな、荒っぽくて、新鮮な、
     この風景の情緒はただ身にしみるように本源的で、
     尋常の尺度にはまるで桁が外れている。
     秋の雲の砲煙がどんどん上げて、
     空は青と白との眼もさめるだんだら。
     物見石の準平原から和田峠の方へ
     一羽の鷲が流れ矢のように落ちて行った。  』

 そして、この詩のレリーフが、正に美ヶ原を代表する文章として「美しの塔」に嵌め込まれています。
美ヶ原は「八ヶ岳中信高原国定公園」で、平安時代から放牧地として利用されて来たのだとか。美ヶ原という何とも優美な名称は、江戸時代に編纂された松本藩の歴史書に記載されているのが文献上の最初だそうですが、大正10年に日本山岳会会長だった木暮理太郎氏が山岳会の会報に美ヶ原への登山記録を載せたことで広く世間に認知され、昭和5年に山本小屋が建てられてから登山客が多数訪れる様になったのだそうです。
 遭難者の避難場所として建てられた「美しの塔」にも、たくさんの観光客やハイカーの方がおられ、皆さん記念写真を撮ったり記念に鐘をならしたりしていました。
そこから牛の「塩くれ場」を経て「百曲り園地」へ来ると、先程の環境レンジャーのお二人が休憩されておられたので、そこから雲の間に見え隠れしていた御嶽や中央アルプス、山間に光っていた諏訪湖、南アルプスを教えていただきました。そして背後の大きな裾野がやはり八ヶ岳で、雲が無ければその肩口に富士山も見えるのだそうです。更にその左後方には浅間山も・・・。
360°見渡せる美ヶ原からは、日本百名山の実に1/3を望むことが出来るのだとか。お礼を言って、想像以上に美ヶ原登山が良かったことをお話しして、お薦めに従って百曲りを下山することを伝えると、
 「気を付けて下山してください」
 家内のポールを一本借りて下りで使ってみると、その楽なこと。浮石ではなく、固い場所を確かめてしっかり突きながら下っていくと、バランスが取れて下りが凄く楽な感じがしました。
下りは45分足らずで広小場に到着。沢沿いに下り、オートキャンプ場を過ぎて駐車場へ3時前に無事到着。
因みに、この日は“カンカン照り”ではなく多少涼しかったこともありますし、登山道が木々の中を歩くために直射日光が遮られていたことも手伝ってか、念のために唐松岳の時と同様に1.8ℓ持参した水は半分しか使いませんでした。登山道の途中には湧水もありましたが、チョロチョロで水を汲むには時間がかなり掛かりそうですので、持参した方が良いと思います。
 三城の登山口から、1時間半の登山気分で百曲りコースを歩き、そこからアルプス展望コースを途中高山植物の花々を愛でながら60分歩いて、王ヶ鼻からの絶景を満喫。また景色だけではなく、マツムシソウや、ウメバチソウ、ハクサンフウロなどの高山植物も身近に楽しむことが出来ました。
北アルプスの本格的な登山とはまた異なりますが、自らの足で手軽に登山気分が楽しめる美ヶ原。予想外で、想像以上に楽しめた美ヶ原登山。ナルホド、さすがに深田久弥が百名山に選んだだけはあります。
一般的なドライブでのビーナスライン経由の観光ではなく、登山として往復自分の足で歩いてみて、その理由が分かった(地元に住む松本市民だからこそ手軽に楽しめた)身近な山旅でした。

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