カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>
松本平では、奈川地区のそば祭りを皮切りに、松本城での「松本そば祭り」が終わると市中の蕎麦屋でも幟が立てられて、その年の秋の新そばの提供が始まります。
ちょうど次女と孫たちが松本滞在中に新そばの時期を迎えたので、二泊だけの婿殿は間に合いませんでしたが、孫たちを連れて新そばを食べに行くことしました。
義弟の営むそば処「丸周」へも、他のお客さんの迷惑になるので事前に連絡して、昼の営業が終わる2時頃を見計らって店に伺ったのですが、お互いのスケジュールの都合で週末になってしまったのがいけなかったのか、行った時はまだ満席で、我々の後にも昼閉店間際の観光客の方々が何組か来られる盛況ぶりなのは何よりだったのですが、我々はその後に来られた方々へのサーブが全て終わった一番最後に回してもらいましたが、我々は小っちゃい子連れなので、他のお客さんに迷惑だろうことを気にしながら、他のお客さんが食べ終わって出て行かれるまで皆で小さくなっていました。
我々がいくら親戚であっても、居合わせたお客さんにとってはそれは全く関係ないことですし、まして親戚でもない無関係のお店なら尚更で、店側が子連れ客を敬遠したくなるのは或る意味止むを得ないのかもしれません。
実際に松本市内でも蕎麦屋の中には“堂々”と子供連れお断りという(或る意味“不遜”な)有名店もある様に、小さな子供がいると他のお客さんに露骨にイヤな顔をされることもあるので、別に蕎麦屋に限らないのでしょうが、次女夫婦がいくら蕎麦好きであっても、松本に帰省した際に他の蕎麦屋さんにはなかなか子供連れで食べに行くことは出来ません。
因みに、蕎麦屋ではありませんが、松本市内のイオンモールの近くの日ノ出町に在る「ご飯カフェ 和み」には個室もあって、小さな子供連れのママさんたちに大人気のレストランなのだそうで、次女から松本滞在中に行きたいからと事前に聞いていて、一度事前チェックに行ったのですが、残念ながらちょうど11月中旬まで改装工事でお休みとのことで、次女たちが滞在中は間に合いませんでした。
(ですので、小さな子連れの人たちは、勢い、イオンモールの広くて色んな選択肢のあるフードコートの様な所に集まってしまうのかもしれません)
そして開店同時入店が前提ですが、3組だけは予約が可能なので、その個室利用をお願いすることが出来ます。
しかもこの部屋には木鶏のお子さんたちが昔使われたおもちゃや絵本が置かれていて、蕎麦を待つ間や、大人が食べている時に子供が飽きてしまったら、自由にそのおもちゃで遊ぶことが出来ますし、他は椅子のテーブル席とカウンター席ですが、仕切られた個室は板張りの上にカーペットを敷いての座布団なので、子供たちが座卓の周りを這ったり歩き(走り?)回ったりしても大丈夫。小っちゃい子供連れには本当に有難い個室なのです。しかも、部屋には店主直筆での暖かなメッセージが置かれていました。
おかげ様で、次女もしっかりと新そばを堪能することが出来ました。会計時にそのお礼をすると、
「ウチにも、もう小学生ですが子供が小っちゃかった時がありましたから、親御さんたちの大変さが良く分かりますので、少しでもお役に立てて、それで蕎麦をゆっくっり楽しんで食べて頂けるのなら本望です。」
(写真下は、村名産の長芋の千切りをトッピングする「やまっちそば」)
日頃ワンコを連れて出掛けたり、また次女の子育て中の電車や買い物での体験談を聞いたり、実際に今回の様に二週間我が家に孫たちが滞在中に出歩いたりすると、とかく“Dog Friendly”や“子育てに優しい”社会について感じたり思うことが少なくありません。
子供たちの遊ぶ声が騒音だというクレームに、まるで“元から切るのではなく、臭いモノには手っ取り早くフタをする”かの如く公園を閉鎖してしまったどこかの自治体の様に、少子化対策の重要性を叫びながら目先の課題には逆の対応をするという様な呆れた施策をするのではなく、こうした小さなことから社会全体が取り組んでいかないと、“言うは易し・・・”だけで社会は何も変わらないのではないか・・・と感じた次第です。
孫たちの二週間の松本滞在中、一日家に居ては飽きてしまいますので、お世話になったのが近所の公民館の広場や松本市内の公園でした。
次女一家の住む横浜の様なズーラシアやアンパンマンこどもミュージアムといった子供向けの人気施設がある訳ではありませんので、子供向けの遊具のある公園をネットで探して車で出掛けました。
行った先は、広大な都市公園である「松本アルプス公園」、信州まつもと空港周辺に拡がる「信州スカイパーク(松本平広域公園)」。そして「あがたの森公園」と、市内の住宅地に在る「庄内公園」や「芳川公園」で、県営の「スカイパーク」以外はどれも松本市の都市公園です。
置かれている子供向け遊具は、アルプス公園以外の公園はそれ程たくさんある訳ではありませんでしたが、アルプス公園含め横浜の様に入場料が必要な施設では無く全て無料で、次女はその充実ぶりに驚いていました。
「松本って凄いね!」
街中から僅か10分足らずで来ることが出来て、しかも信州の高原風の自然の中に拡がる72haという広大な都市公園。しかも眼前には松本平から安曇野越しに北アルプスの峰々が聳えていて、展望台から見る景色だけでも癒されます。入場料も掛かりませんので、観光スポットとしても人気です。
子供たちには走り回れる草原などの広場や、子供向けの遊具が幾つもあってどれも無料で楽しめます。また小さいながらも、猿山やタヌキ、鹿などがいる「小鳥と小動物の森」もあります。
孫たちは崖を利用した大規模な滑り台や、ジャングルジムを組み合わせたローラー滑り台に夢中。尾根筋を何百メートルも下るローラー滑り台もあるのですが、そちらはどこまで行くのか分からず怖いと棄権。アルプス公園内の子供向け遊具は、ドリームコースター以外全て無料なのが家族連れにとって有難い(公園も勿論入場料はありません)。
しかも週末は地元の家族連れだけではなく、諏訪や長野ナンバー、また観光目的での県外車も多く、広い駐車場が満車になることも少なくないのですが、この日は平日だったので、遠足に来て走り回っていた地元の小学校の1年生の集団が、出発時間になって、クラス毎に先生を先頭に皆でトトロの「♪さんぽ」を「♬歩こう、歩こう~」と元気に歌いながら帰って行きました(何だかほのぼのとして、素朴でイイ子たちでした)。彼らが居なくなった後の園内には、マレットゴルフに興じる高齢者の皆さんの他には殆ど人がおらず、広い公園も週末の賑わいが嘘の様な貸し切り状態で、子供向け遊具はほぼ占有状態です。
思う存分走り回り、滑り台などを楽しんで、最後に次女と3歳の上の子、婿殿と1歳の下の子のペアで、ドリームコースターに乗ることに(未就学児は保護者と同乗が原則です)。次女はおそらくシンガポールから戻った小学生以来でしょうから、30年振りでしょう。その頃よりもコースが延長された様な気がするのですが、全長630mとのこと。乗る前に運転の仕方のレクチャーを受け、こちらも他に利用者がおらず、彼らだけで時間を掛けてコースを回り、孫たちはキャッキャと楽しそうにはしゃぎながら思う存分にドリームコースターを楽しむことが出来ました。因みにこちらは有料で大人410円、子供200円で、週末などは順番待ちの行列になることも珍しくありませんが、娘は30年前の自身が子供だった頃と殆ど変わっていないことに驚いていました。
続いては、「信州まつもと空港」をぐるっと囲む形の「信州スカイパーク」。
正式名称は長野県松本平広域公園で、東京ドーム約30個分、凡そ140haの広さの県下最大規模の多機能・多目的型公園です。園内は「競技スポーツゾーン」、「花のプロムナードゾーン」、「ファミリースポーツゾーン」など7つのエリアに分かれていて、14ヶ所の駐車場があるので、行く場所に近い駐車場を選ばないとかなり歩くことになります。
家族連れや子供たちだけでなく、1周10㎞の周回コースがあり、ジョギングやウォーキングなどをしている人など、特に平日などはリタイアされた年配のご夫婦なども結構多く見掛けます。
ただアルプス公園に比べると、子供向けの遊具は少ないかもしれませんが、標高が日本一高いところに在るという空港で離発着するFDAやビジネスジェットなどを滑走路の間近で見られるので、飛行機好きにも溜まりません(但し、便数は少ないですが)。
次に、「芳川公園」。
松本市小屋にある大規模な都市公園で、 1996年3月に開設された、松本市最南部の中核的な公園です。植栽はあまりされておらず、3.9haの公園に芝が広がっていて、その中央部を貫くように人工の川が造られていて、冬場は水が流れていませんが、北東の角には噴水もあって、夏場は子供たちには嬉しい親水公園になります。
場所はJRの「平田駅」と「村井駅」のちょうど間くらいに位置しているので、諏訪に勤務していた頃の電車通勤では毎日車窓から眺めていました。線路沿いにあるため、公園からも「あずさ」や「しなの」といった電車を間近に見ることが出来るので、子供たちも喜びます。
親子連れには、松本市内の公園では珍しい水遊びができる噴水や大型のコンビネーション遊具があるので、特に夏にはおススメの公園でしょう。その水遊びのできるエリアは、水深も浅く、また広々としている人工の池や流れもあります。大型のコンビネーション遊具には、ローラーすべり台や、幅広のすべり台があり、我が家の子供たちも喜んで遊んでいました。また芝生広場もとても開放的で、自然も多く、平田駅が2007年に新設されたため、その周辺が新興住宅地として開発されたこともあって、たくさんの若い親子連れで賑わっていました。
そして最後は、街中にある「あがたの森公園」
松本駅から東にまっすぐ伸びる駅前通りを1.5㎞程、徒歩だと20分くらいでしょうか。旧制松本高等学校の跡に整備された都市公園で、園内には大正期に植えられた大きなヒマラヤスギの並木や日本庭園があり、また保存された旧制高校の校舎は重要文化財に指定され、「あがたの森文化会館」として利用されています。
公園内に残る旧制高校の校舎は、その旧制松本高校から戦後は信州大学文理学部の校舎として1973年までそのまま現役で使われていたことも手伝い、信大移転後に市民や同窓会の保存運動により、都市公園となった今でも大切に維持されています。結局“ナンバースクール”にはならなかったものの、大正時代に他都市と競って松本への誘致に成功した“第九高校”への“学都”としての市民の誇りがその後の保存運動にも繋がったのか、市街の一等地にこうした公園が残っているのは珍しいことかもしれません。
園内には芝生と池、一角には遊具が設置されていて、子供から大人までの松本市民の憩いの場となっていて、広さは凡そ61,000㎡。
但し園内の遊具は小規模なので、子供たちよりもむしろ、大きなヒマラヤスギに癒されながら園内を散策する大人たちの方が楽しめる都市公園かもしれません。
今回のお世話になった松本市内の公園の中で、次女の評価では、大規模なアルプス公園が子供向け遊具の充実度もあってやはり一番。そして、街中に在る身近な公園という意味では、芳川公園の滑り台などが組み合わされた遊具も高評価でした。
「横浜の家の近くにも、こんな公園があったらとイイのに・・・」
と、羨ましがっていました。
今回、孫が二週間も遊びに来てくれたので初めて分かったのですが、松本市内には結構たくさんの子供向け遊具を備えた公園があることを知りました。
「都市戦略研究所」が昨年発表した「日本の都市特性評価 2023」によると、“豊かな居住環境の中で健康的に過ごせる街”として、松本市が主要136都市のなかで総合8位。更に、シニア視点での順位は2位、ファミリー視点も2位、シングル視点では12位といずれも高評価だったそうですし、移住したい都道府県ランキングでは長野県が常にトップを争い、その中でも松本市の人気がとりわけ高いそうですが、もしかすると、こんなところにもその理由の一端があるのかもしれないと納得した次第です。
さて、時間を少し戻しますが、何と言っても金宇館での一番の楽しみは、今回も信州の旬の食材を使った季節の懐石コースです。毎回、素敵な器に盛られた、一手間も二手間も工夫された料理を目でも味わいながら頂きます。
しかも今回はコースの一品ずつを都度厨房から運んでいただいて、「離れ」のリビングダイニングで気兼ね無く我が家だけでの部屋食です。顔馴染みのスタッフの方や女将さんが都度運んで来られ、一品一品料理の説明をしながらサーブしてくれます。
我が家では会食だけでも可能だった10年以上前から金宇館を利用させていただいており、現在の四代目の女将さんが先代の女将さんと当時は二人だけで配膳など切り盛りされていた若女将の頃からです。またその後、姪が地元の保育園で先生として以前金宇館のお子さんを担任していたこともあって、毎年お世話になっている娘たちや最近では孫たちとも顔馴染み。加えて次女同様に結婚される前の航空会社での勤務経験もあってか、次女とはお互い親近感もあるようです。
「随分大きくなりましたね・・・」
「この前、中一の長男に遂に身長を抜かれたんですヨ・・・」
そんなお互いの世間話が何ともアットホームで暖かな感じがします。
続いて栗に見立てたシイタケの利休揚げ。ホタテのしんじょに三つ葉がまぶされていて、素材を活かした薄味ながら何とも言えぬ味わいでした。
八寸が(上から時計回りに)、みぞれ和え、菊花を添えた春菊のおひたし、生姜の効いた牡蠣のしぐれ煮、シャインマスカットの白和え、オオマサリという大粒品種の塩茹で落花生、栗の渋皮煮。
牡蠣以外はどれも松本や安曇野産という地場の食材での地産地消でした。器にそっと添えられた赤く紅葉した庭の百日紅の葉が、更に季節の彩を演出してくれています。
続いて、創業時から受け継がれて来た漆器を4年前のリニューアルに合わせて塗り直したという漆器での椀物が、今回はジャガイモの素揚げが載せられた銀杏のすり流しでしたが、それにしても一体何個の銀杏を使ったのでしょうか・・・。
お造りは、バラの花の様に盛られたいつもの赤身のヒレの馬刺しを、ニンニク唐辛子味噌で頂きます。
焼き物の魚は、カマスがコショウと生姜を効かせたゴボウのすり流しの上に載せられていて、そのすり流しと和えて頂くのですが、何とも言えぬ味わい。
揚げ物は、ナメコの餡かけでの海老入りのレンコン饅頭。餡の塩梅が濃くも無く薄くも無く・・・絶妙でした。そして焼き物の肉は、信州牛のイチボにボタン胡椒の味噌を付けて頂きます。
最後の〆は、栗おこわ。栗は勿論ですが、おこわもほのかに甘味を感じます。
因みに11月になると新そばになって、〆はざるそばになるのだとか。
最後に、デザートで洋ナシのジェラート(こちらは奥さまへ)。
どれもこれも季節の旬の素材本来を活かしながらの、一手間も二手間も加えたこの日の料理の中で、個人的には栗に見立てたシイタケの利休揚げが一番でした。
娘は銀杏のすり流し、奥さまは焼き魚のカマスに添えられたゴボウのすり流しがが一番印象深かったとか。
またどれもこれも、取り分け八寸は酒の肴に実に相応しいのですが、残念ながらこの日もコユキと一緒に寝るために泊まらずに帰らないといけないので、ノンアルビールのみだったのですが、でも合わないなぁ・・・と、結局一杯だけで追加せず・・・何とも残念でした。
続いて金宇館の食で楽しみなのが、翌日の朝食です。
京都のおばんざい風に、一人ずつのお膳に小鉢に盛られて並べらえた品々。
奥の左側から、ナスの揚げびたしと自家製がんもどきの煮物、お馴染みのニシンの煮付け、とろろ汁、続いて手前に白菜の煮浸し、これまたお馴染みのレンコンの炒め煮。歯ざわりが絶妙です。そして自家製のこの時期の香の物として、松本らしい“本瓜”の粕漬けとカリカリの梅漬け。どちらも懐かしい“我が家の味”に似ていて、“お祖母ちゃん”を思い出させてくれます。
それと、茶碗蒸し風の自家製の豆腐の餡掛けと、大久保醸造のお味噌汁と安曇野産コシヒカリのご飯が二つのお櫃に入って・・・。
おばんざい風の中では、毎度感じるのですがニシンの柔らかいこと。どうやったらこんなに柔らかく煮られるのでしょうか。圧力鍋かと思ったら、そうではなく、半日掛けてことこと煮込むのだとか・・・。
「毎度、代わり映えしなくてスイマセン」
「いえ、これを食べるのが毎回楽しみで・・・」
また炊き方もあるのでしょうが、安曇野産コシヒカリのご飯が美味しくて、ついつい食べ過ぎてしまい、今回もとろろ汁だけでの一杯も含め、三杯頂いてしまいました。
一人でお櫃一つを担当した健啖家の婿殿を筆頭に皆同様で、最終的に二つのお櫃は全部空・・・。
「今日はもうお昼は要らないよね・・・!?」
昨晩の夕食、朝食、金宇館の食事はどれもこれも本当に素晴らしい。
しかも三歳児の孫には、夕食も朝食もですが、大人用の献立の中から子供でも食べられそうな料理と一緒に、子供向けにわざわざエビフライなどの別の料理も作って出してくれました(孫の残したエビフライを食べた娘と家内曰く、衣も含めて街の洋食レストランでもお目に掛かれない様な絶品のエビフライだったとか・・・)
今回も十二分に堪能した料理の数々でした。しかも、以前食べた料理とどこか同じ様であっても(例えばレンコン饅頭や、椀物のすり流しなど)似ている様で決して似ていない・・・。毎回食しながら、必ずそんな驚きと発見がありますす。
金宇館の食事付きの宿泊料金は決してお安くありません。正直、年金生活者の我々にとっては尚更です。会食だけでも受け入れていた昔と比べれば、ご時世とはいえ本館の宿泊料金でも昔に比べれば何倍にもなっています。でも、それだけの料金を払っても、滞在から感じるその料金以上の満足感・・・。
それは決して“コスパ”や“タイパ”という単純な言葉や数値だけでは表すことの出来ない、これまで金宇館が積み重ねて来た三代に亘る百年という時間の上に、更に現在の四代目のご主人や女将さん始めスタッフの皆さんが努力して更に創り上げたであろう、癒しにも似た静謐な空気感とも云える様な、館内に漂う決して飾らない自然な雰囲気の“おもてなし”から受ける満足感・・・とでも言ったら良いのでしょうか。
今回も大いに満足することが出来た、そんな金宇館の料理でした。そんな想いを溜息にも込めて、
「ふぅ~、ごちそうさまでした。」
以前の先代の頃の会食だけでも受け入れていた頃から、我が家では10年以上贔屓にしてきた美ケ原温泉の料理旅館『“鄙の宿”金宇館』。
2019年の3月から一年間掛けて“次の百年に向けて”という大幅な改装工事を行い、2020年の4月にリニューアルオープン。
改装前に父の法要後の会食も何度かお願いしたのですが、改装後は数か月先まで予約で埋まっているという人気の高さも手伝い、松本在住者としては誠に残念ではあるのですが、会食だけでの受け入れはもう不可能で、食事は宿泊客のみへの提供となってしまいました。
今回の改装工事は、今までの別館3部屋を一棟に纏め、二階建てに2洋室1和室の三つの寝室、そしてリビング部分と今までは無かった別館専用の内風呂を設け、更に別館だけは食事も部屋食にして、これまで要望があっても受け入れ出来なかった8人までのグループも受け入れ可能にするのが目的とのことでした。
H/Pに依ると、
『この離れは1日1組様限定の貸し切りでご利用いただける建物です。
暖炉のあるリビングダイニングを設け、お食事は朝夕共にお運びさせていただきます。庭を眺める半露天風呂を備え、洋室2室と和室1室の寝室を設けて最大8名様までご利用いただけます。
一階は暖炉のあるリビングダイニングと庭を眺める半露天⾵呂を備え、昭和七年建築当時の意匠をそのまま残し、板張りのリビングと寝室。そして、建築当時の急な階段を上った二階に、和洋の寝室が二部屋。四畳半だった⼆部屋を繋げ、それぞれにゆったりとお休みいただけるダブルベッドの洋室と最大4組の布団が敷ける数寄屋風の和室にしました。』
とのこと。
因みに各寝室は洋室が2名ずつで和室が最大4名の合計8名ですが、それより人数が少なくても、勿論料金は高くなりますが、例えば二人だけで「離れ」を独占しての利用も可能とのこと。
そして家族での利用も出来ますので、これまで本館の5部屋の内「湯ノ原」一室だけだった子供の宿泊も、改装後は別館の「離れ」もOKになりました。こちらなら部屋食ですので、どんなに孫たちが騒ごうが泣こうが、他のお客様に気兼ねなく過ごすことが出来ます。
そこで今回は少し贅沢をして、その「離れ」に我が家で泊ることにしました。但し、本館よりも宿泊料金がかなり上がるので、今回は一泊だけですが(但し、私メは今回もコユキを独りにしておけないので、泊まらずに自宅に戻ります)。
午後3時のチェックインの少し前に着いてしまったのですが、「もう準備は終わっていますから」と、時間前に受け入れて頂きました。そしてラウンジでのチェックイン後、「まだ他のお客様は一人も来られていませんから」と、離れ利用の説明していただきながら、今回は使わぬ一室も含めて「離れ」全部をじっくりと館内見学をさせていただきました。
本館同様に、この「離れ」も館内のあちこちに置かれた生け花と、ご主人がファンで集められたという沢田英男の小さな木彫りの像が“鄙の宿”の静謐な雰囲気を醸し出しています。
そして改装後の本館同様、「離れ」の家具も全て、明治から100年続く木芸工房で江戸指物の技術を受け継ぐ松本の前田木藝工房「アトリエm4」の四代目、前田大作氏の作品とのこと。リビングダイニングに置かれていた椅子の、背もたれの削り出されたカーブが何とも快適そうで、また意匠としてもとても印象的でした(ダイニングの写真はH/Pからお借りしました)。
離れ滞在者専用の板張りの源泉かけ流しの内風呂は、大きな窓が二つあって庭園を眺めながら入浴を楽しむことが出来ますし、時間制限なく貸切状態でいつでも好きな時に自由に温泉を楽しむことが出来ます。
因みに「離れ」では、TVは一階の昭和七年建築当時の意匠をそのまま残したという寝室横のリビングに1台置かれているだけで、二階の和洋の両寝室にはTVがありません。ですので、要らぬお節介ですが、浮世を離れ喧騒を忘れての温泉三昧で、金宇館のコンセプトである“時と泊る”・・・という認識が必要でしょう。
また「離れ」には小さなパントリーがあって、冷蔵庫(ビールや天然果汁のリンゴジュースなどが無料飲料として用意されています)と専用の全⾃動コーヒーマシンもあるので、本館のラウンジに行かなくても後述の広縁に座って庭を見ながら、或いは冬なら暖かな暖炉の柔らかに揺れる炎を見ながらエスプレッソを楽しむことが出来ます。
そのリビングダイニング横の「広縁」と名付けられた庭に張り出した板張りのテラスからは、改装に合わせて作庭された庭が望め、斜面を活かして石庭の様に幾つもの山辺石が置かれています。ただ造園作業に時間が掛かり、植栽工事が全部間に合わず、植栽が可能となる冬になったらまた何本かの木々が植えられる予定だそうですので、完成するとまた印象が変わるのでしょう。
翌朝、他のお客様は皆さん既に観光に出発されたようですが、我々はゆっくりとチェックアウトの11時まで過ごし、最後に樹齢160年という立派な百日紅の横の門柱の所写真を撮っていただいてから、4代目ご夫婦に見送られて金宇館を後にしました。
今回はチョッピリ贅沢をしましたが、価格以上に満足した、完成前から楽しみにしていた憧れの「離れ」滞在でした。
一周忌法要には間に合わなかったのですが、婿殿が夜勤明けの体で次女たちと合流すべく、横浜の病院から松本へ直行して来てくれました。
今回も勤務カレンダーに合わせて、婿殿は僅か二泊だけの松本滞在でしたが、彼を“おもてなし”するため“蔵の街”松本中町の「草菴 本館」に伺いました。
こちらの「草菴」は、信州の地場の季節の食材での郷土料理が食べられるので、例えば娘の大学の恩師の先生が東京から会議で松本に来られた時や、知己の欧州在住のマエストロが演奏会の指揮で来られた時など、以前から我が家では県外からのお客さんをもてなす時に使っている和食料理店です。
次女一家も横浜からですが、都会から来られたお客さんは和洋中華、どれをとっても松本以上の店が都会では選べる筈なので、そうした方々に“松本の食”を堪能してもらうには、勢い信州蕎麦か或いは信州らしい地場の食材を活かした郷土料理しかありません。
この「草菴 本館」はそんな時に使える有難いレストランで、会社員時代には職場の30人を超える宴会でも何度か使ったことがあるのですが、二階には椅子席や畳の個室も大小何部屋かあるので、我が家の様に小っちゃな孫たちがいる家族にとって、特に畳の個室なら多少泣き叫ぼうが這い回わろうが他のお客様の迷惑にならないので便利です。
中町通りに面した別館の「井Say」と隣接した「草菴 本館」があり、草菴は中町から小池町に抜ける通りに面した本館専用の別のエントランスから入ります。
別館の「井Say」は蕎麦や一品料理などが主体のカジュアルなレストランで、本館の「草菴」では一品料理もありますが、5000円からの懐石コースもあり、今回選んだのは8000円のコースで、先付 前菜盛合せ お椀 お造り 凌ぎ 焼物肉 焼物魚 蕎麦 デザートの9品ですが、都会の人に海無し県の信州で鮮魚を食べて貰ってもしょうがないのでお造りは馬刺しへ、そして蕎麦好きの次女夫婦たちのためにお蕎麦もコースの椀そばではなくざるそばへと、予約した際に事前にお願いして変更して貰ってあります(追加料金を払って、一人8500円くらいでしょうか)。
家内の説明を受けて、娘がスマホで料理内容とかを事前にチェックしていると、「草菴って、王滝グループって書いてあるけど・・・」とのこと。
「えっ、ウソ!?」
驚いてネットで調べてみると該当するローカルニュースの記事があり、
『飲食チェーンの王滝(松本市)は13日、飲食店運営や仕出し事業の草菴(そうあん)(同)の全株式を取得し、2024年3月に完全子会社化した。
後継者不足に悩む同社がメインバンクの長野銀行(同)に相談し、同行から王滝に打診があった。王滝は、草菴の本格的な和食料理やサービス力を評価して事業継承することを受諾し、草菴社長を顧問に迎え、従業員全員を継続雇用した』とのことでした。
今年の3月に経営形態が変わっていたとは全然知りませんでした。そのためこれまでの「草菴」なら、スタッフの方が自ら野山に出掛けて採取するという春から夏は山菜、夏から秋はキノコなど、松本市内で獲れる旬の食材に拘った料理がコースの中に食材としてふんだんに使われていたのですが、「もしかすると経営方針が変わって、今までの料理内容が変化しているかもしれない・・・?」と一抹の不安を感じながら中町へ向かいました。
因みに、今回はせっかくの懐石料理なので、私メもお酒を楽しむべく、車2台ではなく家内が運転する1台に皆乗って貰って、私メは一人渚駅から上高地線の電車に乗り、松本駅から歩いて中町の「草菴」へ向かいました。
パルコ通りから伊勢町、本町、中町へ。余談ですが、先に着いているであろう彼らを余り待たせぬ様に、信号機の無い横断歩道を渡ります。長野県は停車率がずっと全国1位ですので、横断歩道手前で車が必ず停まってくれます。但し、観光シーズンは県外車も結構入り込んでいますが、県外ナンバーの車は殆ど停まってくれないので、ちゃんと車が停まってから渡る様にしないと危険で注意が必要です。
駅から歩いていて驚いたのは、この日は日曜日だったのですが、歩いている人たちが欧米系や中国系など殆ど外国人だったこと。中町に在る(開店して年も浅く、地元でのそう有名店とは思えぬ)広島風お好み焼きのお店は行列が出来ていましたが、全員外国人観光客でした。彼等にとっては、例え松本で広島“風”のフードを食べようが“日本食”には変わらないのでしょう。
先附は地元でジコボウと呼ぶハナイグチとアミタケのみぞれ和え、シャインマスカットのクルミ和えなど二品、季節の八寸が地鶏の手羽先や虹鱒の唐揚げ、信州サーモンの手毬寿司、新栗の渋皮煮などが並びます。お吸い物の椀には地元の松茸があしらわれていました。
そしてお願いして変えて頂いたお造りの食用菊の花びらを散らした信州らしい赤身、桜肉の馬刺しです。肉の焼き物で、信州牛のローストビーフに添えられていた焼いたイチジクの甘かったこと。そして魚の焼き物には焼いた蕎麦団子と毎回お馴染みの焼いたマコモダケが添えられていて、それぞれ味噌を付けて食べるのですが、イネ科の水生植物の真菰の茎の部分である、マコモダケ(真菰筍)のコリコリとした歯触りと甘さが印象的でした。そして、ちょうど新そばに切り替わったというざるそばでコースの〆。
経営母体が変わったと聞いて心配していた料理内容ですが、幸い信州の食材を活かすという季節の献立は守られた様で、殆ど変わっていませんでした。
帰り掛け、配膳をしていただいた女性スタッフと見送っていただいたフロア責任者のいつもの男性スタッフの方に、
「ご馳走さまでした。経営母体が変わったと聞いて、正直、料理内容も変わったかもと心配していたのですが、殆ど今までと変わっていなかったので安心しました。また来ます!」
「はい、何も変わらず今まで通りですので、是非またお越しください。お待ちしております!」
次女一家も喜んで満足してくれた様で、もてなす側の我々も安心した「草菴 本館」のいつもの信州の季節の懐石コースでした。
私自身も大いに満足して、まだインバウンドの観光客で賑わう夜の松本の街中を一人歩いて渚に帰りました。