カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>
“昭和は遠くなりにけり”・・・。
今や昭和だけではなくて、最早平成さえも遠くに感じるのかもしれませんが、そんな現代の我が松本駅で“古き良き昭和”を感じさせてくれるモノが二つあります。


そして、40年もの間愛され親しまれて来たこの“名物”アナウンスが、今日の11月16日の最終列車の到着を以って終了し、明日からは新しい音声アナウンスに切り替わるという発表があり、ローカルTVなどで報道されてちょっとした話題になりました。
この「まつもとぉ~、まつもとぉ~」と語尾を延ばす独特のアナウンスの声の持ち主は、アニメ「アルプスの少女ハイジ」のナレーションなどを担当された、今も現役のベテラン声優、沢田敏子さん。沢田さんは40年ほど前の1985年に、当時の国鉄の駅で使用するアナウンスを依頼されたのですが、その中で上野駅と松本駅用には特別な注文が入ったのだそうです。因みに、沢田さんが選ばれた理由は、甲高いソプラノではなく、沢田さんの声の周波数が機械にも載り易い落ち着いたアルトの声域の持ち主だったからとか。
沢田さんに依ると、収録したのは国鉄が駅の自動放送の本格導入を計画した時期。声の吹き込みの依頼を受け、担当者から「切れの良い発音で」など数多くの指示があり、北海道から九州まで収録した幾つもの駅の中で、東北や信越などの玄関口として一大ターミナルだった上野駅と、松本駅だけがなぜか「別枠扱い」とされ、「上野は郷愁を、松本は旅情を感じるように・・・」と注文されたのだそうです(余談ですが、そのため“鉄ヲタ”の間では「上野オバサン」と呼ばれて有名な存在だったのが、上野駅の音声アナウンスが終了してしまったため、今度は「松本オバサン」と呼ばれる様になったとか)。
それにしても、東京の一大ターミナルだった上野駅と並んで、一地方駅である松本駅がなぜ別格だったのか・・・?
その理由は、当時長野県では冬季五輪の招致話があり、国鉄がいち早く自動放送を導入したからだった様です。


「松本は今までと他とは違う雰囲気を出して欲しいって言われて。松本はすごく空気が澄んでいて、アルプスの少女ハイジの様に山の澄んだ空気とそこからイメージが膨らんで、“やまびこ”みたいな読み方にしましょうかねと、試行錯誤しながら」何度も録音し直して、漸くOKが出たのだそうです。
そして、現在このような語尾を伸ばすアナウンスが聞けるのは、全国の駅の中でも松本駅くらいなものだとか。
学生時代に生まれて初めて4年間松本を離れ、そして就職して会社に入り、今度は7年間海外赴任をして、その間に帰省や出張帰国で松本へ帰って来る度に、終着の松本駅に降り立って、この「まつもとぉ~、まつもとぉ~」という松本駅ホームのアナウンスを聞くと、「あぁ~、松本へ帰って来たなぁ」という実感が湧いてきたものでした。そんな“名物”アナウンスも、機器の老朽化で、自動放送設備の更新が必要になったのですが、新旧放送機器のメーカーが異なりシステムが違うため、40年も前の古い音声データを新しい機器に引継ぐことが技術的に不可能とのことから、JRサイドも止む無くこのアナウンスの変更を決めざるを得なかったとのこと。
というのも、駅の自動放送は単純に「まつもとぉ~、まつもとぉ~」だけではなく、システムとしても技術的に複雑で、松本駅に到着した列車により、その後の放送が全て異なるからです。その到着した列車(松本駅は、特急あずさの終着ターミナルでもあり、また特急しなの途中下車駅でもあり、更に毎回特急とは限らず、普通列車も中央東線、中央西線、篠ノ井線、大糸線とそれぞれあります)毎に異なる内容が、単語、文節毎に事前に録音されている音声データの中から、その都度自動的に選ばれて他の決まりきった文節と組み合わされ、結果として一つの文章になって行くのです。それは、例えば・・・、
『松本~松本~・終着・松本です
お忘れ物の無いよう・もう一度お手回り品をお確かめください
本日は・特急・あずさ・○○(号数)号を・ご利用いただきまして・ありがとうございました
○○方面は・○番線から・○時○分発・普通列車・○○行きをご利用ください
アルピコ交通・上高地線は・7番線の・新島々・行きをご利用ください』
と、都度選ばれた単語と単語の間のつながりに少し間があって、不自然に感じられるのはそのためなのです。
先月末、そのニュースが流れて、これまで松本に来訪したことが無かったという声の主である沢田さんご本人が、11月1日に地元の鉄道ファンの方々に招かれて初めて松本に来られ、松本駅で40年前のご自身の声を聞かれ、地元TVの取材クルーのリクエストに応えて、40年振りに「まつもとぉ~、まつもとぉ~」というアナウンスを、お年を召されてトーンこそ少し下がっていましたが、現役声優として変わらぬ張りのある“生声”で披露されていました。
この名物アナウンスは、或る意味松本にとっても“宝”の筈。
良く有名な歌謡曲や歌の発祥の地などに行くと、歌詞を彫った石碑があり、そこのボタンを押すとその歌が短く流れたりすることがあります。
出来れば、そんな簡単な装置で松本駅のどこか、例えば冒頭の古い松本駅の表札の近くにでも(駅の正式なアナウンスの邪魔にならぬよう)、“古き良き”昭和の松本の“記憶遺産”として残して頂くことは出来ないのでしょうか?
或いは、JRとしては併存させるのは日常の業務上無理でしょうから、松本市が支援して(もしくは市民から募集してのクラウドファンディングでも良いから)、例えばJRではない、地元のアルピコ交通の上高地線専用の松本駅の7番線ホームで、ワンマンカーのアルピコの電車の松本駅到着時だけ、機関士さんが手動でその車内や7番線ホームだけで“現役のアナウンス”として流すことは出来ないでしょうか?

40年もの間、松本市民に、観光客に、そして登山者に愛され親しまれてきたこの名アナウンスが、今日11月16日の最終列車の到着を以って終了し、明日からは新しい音声アナウンスに切り替わります。
【追記】
同じ様に感じる松本市民の方々が多い様で、市やJRにも「何とか残して欲しい」という声がたくさん届いているそうで、幾つか地元紙に記事として掲載されました。

技術的なことは分かりませんが、ただ今回残して欲しいのは「まつもとぉ~、まつもとぉ~」という冒頭部分だけですし、予算面で急な捻出が難しければ、それこそ場合によってはクラウドファンディングで市民に呼び掛けても良いだろうし、何とか松本市民の願いが届けば良いと願っています。
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