カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>

 朝の小一時間の通勤時は、NHK-FMでのクラシック三昧です。
前回(第645話)でもご紹介したように、月曜日(前日の再放送)は「きらクラ」でのふかわりょうさんとチェリストの遠藤真理さんのクラシックにまつわる軽妙なトークを「ムム、そう来たか・・・」などと感心しながら楽しく聴かせてもらっていますが、火曜日以降は「クラシックカフェ」という番組。
これが、一般的な名曲番組にリスナーが飽きているという前提なのか、その選曲に毎回テーマの統一性(例えば、オリンピック前後はイギリス音楽とか、中南米の作曲家、あるいはスペイン音楽など)は伺えるものの、如何にも昔のNHKのアナウンサー的な無味乾燥な曲紹介だけで、薀蓄も無く、時々「あっ、こんな曲もあるのか」と思うくらいで正直全く面白くない日々。やはり、名曲と言われ世に知れ渡った曲にはそれなりに理由があるものだと、放送を聴きながら逆説的に納得させられています。

 ところがお盆明けだったでしょうか。その週は夏休みの?特別番組とのことで、4回連続での「グレン・グールド変奏曲」(没後30周年?)と題しての特集でした。
昔の記憶で“奇人変人”というイメージでしたので、当時LPレコードも買ったことは無く(自分でピアノも弾かないのでオケ中心の収集で、唯一ルビンシュタインのショパンのノクターンの全曲集のみ)、あまり期待もせず流していたところ、特にバッハの「イタリア協奏曲」の演奏(放送は第一楽章のみ)を聴きビックリ。ナント軽やかで瑞々しいバッハなのでしょうか!一瞬にして虜になって、(運転しながらも)聴き惚れてしまいました。
 しかも、音楽評論家の方(失礼ながらお名前存じ上げず)の、彼に関するエピソード紹介をふまえ、ピアニストの仲道郁代さんのプロならではの「ここは、こうしないと、こうは弾けない筈ですね」という見事な解析と、彼の音と演奏からその心情までも読み解く感性に、些か大袈裟に言わせて頂ければ、状況証拠を説明する警察(音楽評論家)に現場に行かずに謎を解く名探偵(Armchair Detective)を見るようで、「なるほどなぁ・・・!」と唸りながらの運転でした。(時折、若き日のグールドの写真に「ナンテ美男子なんでしょう!」という仲道さんらしいミーハー的発言と、自身ミュンヘン?留学時代に、夜一人彼のブラームス?の小品集(間奏曲?)のCDに心癒されたというエピソードなども交えられて・・・)

 ただ2時間の番組は小一時間の通勤では全て聴けず、しかも峠の山道で受信状態も悪く、途中2.5kmの三才山トンネルを始め計4キロ超の4本のトンネルがあるため、途切れ途切れの視聴。ある時は、平井寺トンネルを抜けた途端、英語で「私はグールド氏と曲の解釈・テンポで一致をしている訳ではないが、彼との演奏は常に冒険的で必ず新しい発見がある(から演奏する)」という趣旨のスピーチが流れていました。
「ナンジャ、こりゃ?」
そして、今まで聴いたことの無いような重々しいスローテンポで、ブラームスのピアノ協奏曲第一番の第一楽章のオケの前奏が始まりました。
そこから会社までは僅か10分足らず。誰の指揮かも分からず、スピーチの趣旨(インタビューなのか?であれば何故わざわざ英語で肉声を流すのか)も分からないままに会社に到着。どうしても気になって仕方がないので、NHK-FMのH/Pを検索し、それが、バーンスタインがNYフィルとのブラームスの第一番のピアノコンチェルトを、グールドをソリストに迎えて演奏した演奏会でのライブ録音だと知りました。
31歳で演奏会から引退しスタジオ録音のみに専念したというグールドが、天下のバーンスタインが演奏開始前にわざわざ聴衆に向かって語ったスピーチまで入ったこんなライブ録音を残していたなんて・・・凄いですね。まさにグールドワールド!でしょうか。きっと、登場を舞台袖で待ちながら、彼はクスクス楽しそうに笑ってそのスピーチを聞いていたんでしょうね。

 殆ど“食わず嫌い”状態だったための新鮮さは勿論ありますが、例えプログラムの半分ではあっても、グレン・グールドの演奏をまとまって聴けたこととプロの演奏家による分析の面白さに、本当に楽しめた4日間の放送でした。