カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>

 以前ご紹介した様に、一緒に「源智の井戸」の清掃ボランティア“源智の井戸を守り隊”に参加頂いている方から、これまで「鯛萬の井戸」の清掃を続けて来た地元町会の有志三人での活動が、やはりメンバーの皆さんの高齢化に伴って継続するのが段々困難になって来ており、片や「源智の井戸」が同様に困難になった地元町会での維持管理を、行政と連携して活動のエリアを拡げ、井戸利用者などまで広くボランティアを募って清掃活動が始まったと知り、その「源智の井戸」のノウハウを「鯛萬の井戸」の今後の活動の参考にするために参加していると伺ったことから、逆に個人的には「鯛萬の井戸」の状況を参考にすべく、初めて現地を訪ねてみることにしました。

 というのも、4年前に法政大学の或るゼミが「地域と水の係わり方」の研究レポートで、題材に「まつもと城下町湧水群」を選び、そのレポートで幾つかの提言がされているのですが、その冒頭に、
『(前略)環境省による名水百選の選定地のほとんどで井戸や湧水などの水場の整備を地域再生につなげる試みが生まれはじめている。数ある名水のまちのなかで、松本市は「公」の井戸(以下、公共井戸)整備のトップランナーだが、さらに一歩前進して水場の整備をどのように地域再生につなげるかに注目を集める自治体なのである。
そこで私たちは、松本市が整備してきた公共井戸に焦点を絞り、どうすれば水場を「憩いの場」にすることができるのか、その政策的なヒントを提示することを目指した。
そのために、私たちは公共井戸のなかでも際立った存在感を放っていた「源智(げんち)の井戸」、「槻井泉(つきいずみ)神社の湧水」、「鯛萬(たいまん)の井戸」の3つの井戸に焦点をあてて調査を行うことにしたのである。
夏の5日間の調査の結果、大きな課題が見つかったのは「源智の井戸」である。存続の岐路に立っているといっても過言ではない状況下にあり、その政策的対応の方向性を示すことにした。
その一方で、「槻井泉神社の湧水」と「鯛萬の井戸」は、地域の「憩いの場」として機能しており、松本市の目指す成功事例と位置づけた。そこで、なぜ「憩いの場」になっているのかを明らかにすることにした。(以下略)』
 つまり、この4年も前のレポートの中で、「源智の井戸」は今のボランティア清掃へ至るべき課題が既に指摘されており、一方で対照的に湧水群の“優等生”として評価されていたのが「鯛萬の井戸」だったのです(更に敢えて言わせて貰うならば、研究成果が市の幹部職員を集めての報告会で報告され、今回の「市長への手紙」に至る問題点や課題を既に4年前に把握し認識しておきながら、結果的に何も対応して来なかったのが、残念ながら我が松本の行政の実態なのです)。
そんな“優等生” だった筈の「鯛萬の井戸」の現状が心配になり、「源智の井戸」に関わる者として決してヒトゴトではないことから、“三現主義”ではありませんが、「鯛萬の井戸」を初めて実際に見に行くことにしたものです。
 先述(第2025話)の通り、「鯛萬の井戸」の在る下横田町は、通称“裏町”と呼ばれる松本の飲み屋街にあります(以下の町の紹介は、「うら町」周辺を再び活性化しようという「信州松本うらまちレジリエンス協議会」のH/Pから引用させて頂きました)。
松本城下では、お城やその周辺の武家地、そして善光寺街道筋である町人の街である当時「親町」と呼ばれた3町(本町・中町・東町)を「表」とすれば、「枝町」としての現在のこのエリアの上横田町と下横田町を、親町の「表」に対して「裏」と捉えることが出来ます。。
このエリアは、その江戸時代には多くの茶屋等が軒を連ね、明治に入っても藩財政の窮乏を補うため、この東町と横町に限り売女渡世免許が認められ、明治10年には遊郭設置の場所としてこの横田耕地が選ばれるなどして、昭和34年の売春禁止法が施行されるまで栄え、また芸者を抱える料理営業店も集積していました。そして、明治期以降養蚕業を中心に栄えた“商都”松本の盛り場として、その後も平成初期まで賑やかな状況が続いたエリアでもありました。
 そんなエリアに在った松本の老舗の割烹料亭が「鯛萬」であり、その「鯛萬」が大正11年に掘って使用していた井戸が料亭移転後も地元で大切に守られ、平成15年に市の「街なみ環境整備事業」により周辺が井戸公園として整備されました。その後、地元の有志3名の方が井戸の清掃を毎週続けられて維持管理されています。
当時のレポートに依ると、「どうして外部の掃除ボランティアに頼んで、掃除する人数を増やさないのか?」という問い掛けに対し、『外部ボランティアは普段から井⼾の近くにいることが難しく、利⽤者が井⼾を利⽤する様⼦を⽇常的に⾒ることができないので、現管理者の価値観を完全に理解することが難しい』とのことで、その時点では地元有志だけでの維持管理を標榜していた様なのです。
確かにその通りで、以前私も書いたのですが、「源智の井戸」の清掃ボランティア発足にあたって、個人的に会議の中で力説しお願いしたのが、
『少子高齢化とドーナツ化現象で市の中心街の人口が減っており、人手の無くなってしまった地元町会は清掃活動そのものからは“卒業”しても、その代わりに、日頃の井戸の様子は地元に住んでいないと把握できないため、町会長はじめ地元の方々に出来るだけお願いして、日頃気の付いたことを市の担当課等へその都度連絡いただく』ということでした。
そして、そのことをキチンと取り決めとして議事録に残し、地元町会と確認させていただいた様に、そうした地元の方々に依る日頃の見守りが絶対に必要不可欠なのです。
しかし地元に拘るが余り、それによって担い手が減り後継者が集まらず、もし大切な井戸が寂れてしまってはそれこそ本末転倒であり、外部の手を借りながら、如何に地元がしっかりと目配りや気配りをしていくかが今後への鍵だと思うのです。
 さて「鯛萬の井戸」へは、東町の旧善行寺街道(国道143号線)から正行寺小路へ曲がって裏町に入り、裏町を北上して、「鯛萬の井戸」と縦書きの書かれたレトロな銅板?の看板を目印に、「名店横丁」と書かれた看板をくぐって、人一人通るのがやっとのその名もその名も「鯛萬小路」という狭い通りを進んで行くと、急に道が開けた先に小さな公園が在って、東屋に覆われた井戸が現れます。
塩屋小路からは車で入ることも出来そうですが、「鯛萬小路」を歩いて行った方が風情があります。
もし時間があれば、近くに松本市内で今も唯一残る酒蔵、善哉酒造の仕込み水にも使われている名水「女鳥羽の泉」もあるので、そこまで足を延ばしてみるのも良いかもしれません。
  この「鯛萬の井戸」は、「源智の井戸」に比べると如何にも公園らしく広々とした敷地で、ベンチも幾つも置かれていて羨ましいくらいです。
先述のレポートの中で、「鯛萬の井戸」が市民の“憩いの場”であるのに対し、「源智の井戸」は「殺伐とした」単なる“水汲み場”になっているとの指摘は、市の中心街に在り、人通りが多い高砂通は城下町特有の狭い一方通行のため、井戸の脇に遠慮してギリギリに一台しか車を停める場所しかない「源智の井戸」と、片や路地の奥の広々とした公園の中に佇み、井戸を目当てに来る人しかいない「鯛萬の井戸」との、その置かれた環境の違いが大きいのだと個人的には感じました。
「鯛萬の井戸」は、御影石の石造りの水槽に囲まれた井戸の縁の真ん中からこんこんと水が湧き出していて、二段になったその水槽の周りもまた御影石の石畳で覆われています。「源智の井戸」の木製の井桁と比べると、遥かに磨いて藻を落とし易く感じます。
説明に依ると、「鯛萬の井戸」の水は平均13.2℃で、松本の湧水群の中で一番冷たい水とのこと。そして硬度は76の軟水です。
東屋の梁には何本もの柄杓や、その柄杓で水をすくって口の細いペットボトルに入れる時用のジョウゴがやはり幾つも吊り下げられていて、水を汲みに来る利用者の便宜を図っています。
お水を頂いてみると、雑味の無いとても柔らかな水でした。ただ、10年来使わせて貰っている「源智の井戸」の水に比べると、両者の硬度の違いではなく、「源智の井戸」の水は甘い気がするのです。飽くまで私個人の嗜好ではありますが、“甘露”と呼んでも良い程に甘く感じる「源智の井戸」の水の方が個人的には美味しく感じます。
 水を汲んで飲みながらベンチに座って周囲を見回すと、やはりこの公園としての解放感は羨ましい気がしました。しかし、井戸そのものや井戸周辺の石畳はキレイに磨かれてはいるものの、井戸の周りの公園の空き地は随分雑草が伸びて蔓延ってしていて、恐らく井戸の清掃を担当されている高齢者の皆さん3名では、そこまで手が回らないのだろうと推察されました。
もしかすると、公園が市の管理であれば、定期的に業者に依る草刈り等がされているのかもしれず、今回はその直前で、雑草が伸び放題の時期の井戸にたまたま来てしまっただけなのかもしれません。
しかし、後日「源智の井戸」清掃ボランティアに参加いただいている方にお聞きしてみると、公園の管理も含め全て地元町会に委ねられているとのことで、市の公園緑地課が草刈りをすることは無いのだそうです。
そこで、我が家には昔リンゴ園の草刈りで使っていた刈払い機(草刈り機)があり、果樹栽培を止めた今はせいぜい年に2回程、僅か2~3坪足らずのお墓の草刈りに使うだけなのですが、長い間使わないとなかなかエンジンが始動しなくなってしまうので、場合に依ったらそれでささっと草刈りをしても良いかと思い、「源智の井戸」清掃ボランティアに参加して頂いている「鯛萬の井戸」清掃のメンバーの方にその旨お伝えしました。
「源智の井戸」清掃ボランティア全体として市内の他の井戸と連携し、清掃のお手伝いするのはスタートしたばかりで些か時期尚早ではありますが、私個人としてなら別に構わないので、井戸清掃ではなく出来ることからお手伝い出来ればと思った次第です。

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