カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>

 11月3日(日)。ミューザ川崎シンフォニーホールでのチェコ・フィルハーモニー管弦楽団の来日公演。
今年も、「誕生日と、結婚記念日と、お中元とお歳暮もぜ~んぶまとめて!」と、長女夫婦がプレゼントしてくれました。ミューザ川崎は、サントリーホールと同じヴィンヤード型のコンサートホールで、ステージ後方にパイプオルガンを備えた2000席の堂々たるホールです。今回は、折角だからとステージ後方の席を娘が確保してくれました。但し、真後ろ(P席)だとピアノが殆ど聞こえないからと、ステージ左手後方の2階席(LA席)です。     

 ミューザ川崎もハーモニーホール同様に大震災で損傷し、今年4月に修復なったばかりの筈。初めて入ったホールは、まるで巻貝の内部を連想させます。また、すり鉢のように上部に広がっていて、最上部の5階席はかなりの高さで、高所恐怖症の方は尻込みするのではと思えるほど。私メも遠慮したい気がしますが、そのため普通のホールより、全体に客席からステージがかなり近く感じるのではないかと思います。
川崎というと神奈川県ですので、信州人の感覚では都心からは遠い印象でしたが、東海道線だと品川から最初の停車駅。娘たちの住む五反田からは、すみだトリフォニーに行くよりもミューザ川崎の方が遥かに近くて便利です。
 さて、この日のコンサート。イルジー・ビエロフラーヴェクが20年振りに首席に復帰し、ノイマンの黄金時代以来、久し振りのチェコ出身の指揮者となりました。マエストロはBBC交響楽団の首席なども歴任しており、チェコ物ばかりを売りにしている訳ではありませんが、やはり期待は高まります。
この日は、グリンカの「ルスランとリュドミラ序曲」に始まり、現地のチェコ・フィル定期デビューで絶賛されたという河村尚子が、その時同じ「ラフマニノフ2番」。休憩を挟んで、最後に十八番(おはこ)の「新世界」。
ほぼ満席で、2階正面には評論家の思しき方々も。
 最初の歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲。以前NHK‐BSで放送されたマゼール指揮N響定期での快演が耳に残っていたので、それに比べると、しかも片やアンコールでしたので、先ずは肩慣らしといった軽めの演奏で、マエストロは余裕の指揮振り。その音は、私たちの客席の場所もあるのか、最後部中央に横に8本並べたコントラバスを始め、弦の低音が決して重たくならずに重厚に響き、一方管楽器には温かみが感じられ、ステージ全体が鳴っている感じで、このホールの音響の良さに驚かされました。ただ、日頃ステレオに慣れた左右のバランスと、ヴィンヤードのステージ後方席での音のバランスに最初は違和感がありましたが、慣れると、ステージ左後方からのTVカメラの目線で、指揮者の生の表情が手に取るようで、日頃のコンサートとは違う面白味を堪能出来ます。
      
 続いて、河村尚子嬢をソリストに迎え、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番。席からは、後姿ですが、指の動きが良く見えます。二の腕の予想以上の逞しさでの力強い打鍵で、オケと対峙しながらも流れるようなタッチで奏でていきます。惜しむらくは第1楽章でオケとのテンポにズレもあったものの、全体に決して叙情的に成り過ぎず、メリハリの利いた意志の強さが感じられる演奏でした。アンコールはショパン(リスト編)の「私の愛しい娘」。

 休憩時間にロビーに行ってみましたが、この立派なホールにしては、廊下とロビーが少々狭いのがちょっぴり難点でしょうか。
 メインのドヴォルザークの交響曲第9番「新世界」。
米国で初演された120年前(初演はNYP)以降、恐らくチェコ・フィルは自国の大作曲家のこの曲を、それこそ何百回と演奏してきたことでしょう。それが伺えるような、マエストロの指揮に統率されての自信に満ち溢れ、安定した余裕の演奏。しかも、聴く場所もあるのか、手前の第一ヴァイオリンなど、まるで一つの楽器のようにさえ纏まって聞こえて来ます。
“弦の国”チェコを代表し、その響きを絹にも例えられるチェコ・フィル。(良い意味で)くすんだような、何とも温かみと包容力ある音色にウットリと聞き惚れていました。弦楽器のみならず管楽器も含め、決して火花散るような熱い演奏ではありませんが、「任せなさい!」とでもいうような余裕の演奏。きっと、これが十八番(おはこ)というものなのでしょう。第2楽章でのイングリッシュホルンのお馴染みの主題も、ボヘミアの哀愁を漂わせているかのようでお見事でした。終了後、ブラヴォーが飛び交いました。

 アンコールには、先にドヴォルザークの恩師ブラームスのハンガリー舞曲第5番、続いてお馴染みのスラブ舞曲第3番。会場が熱狂に包まれました。
そして、上から見る団員の譜面台にはまだ楽譜が置かれていて、何とアンコール三曲目。耳慣れない序奏から流れてきたのは、「故郷」のメロディー。大震災の日本を想っての選曲か、目頭が熱くなります。ありがとう!と言いたいほどに、客席には(後ろが邪魔にならない席では)スタンディング・オベーションの方々も。何度も繰り返されたカーテンコールの後に、団員の方々が一礼されて袖に下がって行いかれる時も、最後まで拍手は鳴り止みませんでした。

 東欧圏の名曲シリーズとも言えそうな、そして思いがけない「故郷」のエンディングでの何とも心暖まる演奏会でした。幸せなひと時をプレゼントしてくれた娘夫婦に(特に彼は海外出張帰国の成田から直行してくれました)感謝、感謝でありました。

【追記】
 最後に苦言を一言。
オケのテュッティでの「ジャン」の後に、すーっと消え入るように終わる「新世界」の第4楽章。2LA席で2つ左隣の席に居た若いお嬢さんが、まだ指揮棒が下ろされない内にフライングの拍手。
何年に一度オケが来るか来ないかの、ド田舎の演奏会ならいざ知らず、都会のコンサートでのぶち壊しのひんしゅくモノに、思わずキッと睨みつけてしまいましたが、開演前に聞くとも無く聞こえてくる会話では、何だか学生オケで楽器をやっているような感じの、クラシック音楽に詳しそうな彼でしたので、お連れの彼女には(連れて来るなら)少なくともちゃんと注意すべきでしょう。思い出しても腹立たしく、折角の良いコンサートでしたのに唯一の残念でした。
そう言えば、茅野市民館での小菅優のピアノリサイタル。
最初の悲愴の第2楽章で、ウットリし過ぎたのか、かすかに鼻息を漏らしてコックリと眠ってしまった前列のお母さんを、多分ピアノを習っているのでしょう、隣の小学生の女の子が即座に肘で突いて起こしてから、目でお母さんにしっかりと注意をしていましたっけ。微笑ましくもエライなぁ・・・と思った次第。