カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>

 県の松本文化会館(「キッセイ文化ホール」。市の音楽文化ホール“ザ・ハーモニーホール”が、地元では“音文”と略称で呼ばれるのに対しての“県文”。因みに、県の文化会館は長野、伊那も含め全3ヶ所)の主催イベントである「まつぶん新人寄席」。“あしたは真打ち”と題して、若手の二ツ目さんが毎回二人登場される寄席が年3回程開催されていて、既に17回を数えています。
 今回は県文の開館25周年記念ということでの特別公演として、過去新人寄席に出演された二ツ目さんお二人、三遊亭ときん(時松改め)と柳家小八(ろべえ改め)の「真打昇進披露興行」が行われたのです。
落語協会では今年の春は5人の二ツ目が真打に昇進し、その昇進披露興行が3月に上野の鈴本から始まり、5月の20日の国立演芸場まで延べ50日間の披露興行を一週間前に終えたばかり。その縮小版とはいえ、披露興行がこの松本で居ながらにして楽しめるのですから、これは聞かなきゃ損!・・・。しかも、有難いことに今回も60歳以上はシニア割引きなのですから。

当日、家内に送ってもらって県文に行くと、ロビーは会場前から長蛇?の列。前座で人気の春風亭一之輔師匠が上がられるということもあるのでしょうが、なかなかの活況で何よりです。お二人のご真打昇進を祝って贔屓筋から贈られた幟旗がホール入口に、そして舞台の両横にはうしろ幕も張られて、真打昇進披露興行らしい雰囲気です(そう云えば「うしろ幕」に書かれている「与利」は、幕を贈った贔屓筋「より」だったんですね。「どうらく息子」の錫楽の真打昇進場面で知りました)。県文の中ホールは700席程度ですが、今回は階段状の座席部分をクローズしていましたので400席程度でしょうか、開演時にはほぼ満席になりました。
 この日の演目は、先ず一之輔師匠のお弟子さんの前座の春風亭きいちさん
の「一目上がり」でお目出度く開演。
続いて一之輔師匠の「かぼちゃ屋」(かぼちゃ)。NHKの「落語THE MOVIE」でも一之輔師匠が演じられていました。まくらから大笑いで会場が湧きます。さすが!
 「しかし、巧いなぁ・・・」
メリハリ、声の大きさ、顔の表情、どれをとってもさすが・・・です。溜息すら出て来ます。口から出る「音」だけなのに、その仕草で、小さん師匠の云われた「了見」ではありませんが、目の前には天秤棒を担いだ与太郎が現れて・・・、師匠の与太郎振りの素晴らしさ。NHKでのアテブリで与太郎を演じた加藤諒さんの“名演”を思い出しました。
続いてときんさんの師匠である三遊亭金時師匠。金時師匠と言えば、その昔、NHK「お笑い3人組」(古いなぁ!)に出演されていた四代目金馬師匠が実の御父上。
演じられたのは「宮戸川」。珍しいネタの様ですが、「どうらく息子」で銅ら治も演じていたので記憶にありました。高座に掛ける場合も、通常半七とお花の艶めかしい場面で「ちょうど時間となりました」となる前半だけが演じられることが多いのだとか。
前半のトリはときん師匠。ネタはお馴染の「家見舞い」。小さん師匠が演じられたのをCDで聞いています。ときん師匠は飄々として味があるので、人情噺よりも滑稽噺の方が向いているかもしれませんね。
この日は口上もあるため、どのネタも本寸法とはいきませんが、ときん師匠がネタの後、余興で「かっぽれ」を踊ってくれました。「どうらく息子」でも銅楽師匠が亡くなられた植草さんが好きだったという「かっぽれ」を追悼に踊る場面がありましたが、実物を見るのは初めて。幇間芸と云いますが、なかなか見事でした。
 10分間の「仲入り」の後、舞台では真打昇進の口上。司会は一之輔師匠。
落語会らしく、修業時代の暴露やしくじり紹介もありながら、弟子に対する優しさの感じられる可笑しくも温かな口上が続きます。
第1210話でもご紹介した落語についての雑誌記事(第1186話)で、読売新聞企画委員の長井好弘氏が噺家の師弟関係を紹介した文章中で、春風亭一朝師匠(一之輔師匠はその弟子)に触れた中に、
『(前略)総領弟子が六代目柳朝を継いで真打に昇進した。その披露口上に一朝の気概を感じた。
「あたしが真打になった時、師匠の先代柳朝は病に倒れていて、口上を行ってもらえなかった。だからあたしは、何としても長生きして、こいつ(新・柳朝)の口上を言うんだと思い続けてきました。(後略)』
新真打になられたろべえ改め小八師匠。一年前に急逝された喜多八師匠がおられたら口上で何と言われたのでしょうね。嬉しかっただろうな。一朝師匠ではありませんが、いずれは弟子を持つであろう小八師匠自身も何か期する想いもあるのでしょうね、きっと。天国から見守っているであろう故喜多八師匠と唯一の弟子だったろべえさんの心中を想い、涙、涙・・・。
 小八は喜多八師匠の二ツ目時代の名。師匠亡き後、大師匠の預かり弟子となって、その小三治師匠が名付けてくれたとか。今回の口上は小三治門下の総領弟子である〆治師匠。「本来であれば師匠の小三治が来る筈でしたが、もっと割の良い仕事が急に入ったのでそっちに行っちゃいまして・・・」という代役としてのお決まりの口上から始まりました。新真打のお二人も一言決意を述べられて、最後は恒例の三本締め。会場一杯の拍手で包まれました。

 後半は柳家〆治師匠の初夏らしく「お菊の皿」。「どうらく息子」では加賀屋ありすの十八番でした。
続いては、三増れ紋さんの「江戸曲独楽」。「福を回す」として独楽はお目出度い芸なのだとか。軽妙な喋りと見事な技で湧かせてくれました。
そしてこの日の大トリで柳家小八師匠。ネタはお馴染の人情噺である「子別れ」(子は鎹)。
「夏の疲れが尾を引いて・・・」、「虚弱体質なので・・・」とか、亡くなられた喜多八師匠の気だるさも引き継いで・・・。
たまたま学生時代に寄席で聞いた喜多八師匠の落語に惚れて弟子入りを志願するも拒絶。めげずに、卒業後はバイトをしながら一年半も嘆願し続け、遂に弟子入りを許されたと云います。故喜多八師匠の唯一の弟子。だからこそ、何人もの真打を抱える小三治一門ですが、弟子の真打には任せずに大師匠自身で預かられたんでしょうね。
 イヤ、良かった。初めての真打披露興行。東京まで行かずとも、この田舎でその雰囲気を楽しむことが出来て感激しました。本当に良かった。また、卒業生が誕生してのお披露目に期待します。
さて、今年最後の次回「第18回まつぶん新人寄席」は、9月に花緑師匠のお弟子さんである柳家花ん謝と圭花の二ツ目お二人。柳家圭花さんは、ナント地元大町市のご出身とか。楽しみですね。