カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>

 シンガポール駐在時代。大人数での会食や駐在員家族での懇親会などで、中華のコース料理の時に必ず最後の方(注)で出て来る(注文する)のが、白身魚の蒸し料理でした。当時の記憶に無く(英語が公用語だったシンガポールでは、中華料理店でもメニューも注文も英語表記されていたので)、調べてみると中国語表記では「清蒸鮮魚」(発音は香港でチンジョシェンユイとのことなので、広東語でしょうか)らしいのですが、香港でも一般的なようですので本来は広東料理でしょうか。

 余談ですが、 “食の交差点”と云われるシンガポールは、中華料理やシーフード料理に使われる食材も世界各地から集まります。例えば、Drunken Prawnやチリクラブの蟹などそれぞれ生きた食材で、エビはインドネシア(当時開発されたばかりのバタムに行った時は、海辺の養殖場の様な生け簀の中で飼っていたエビを、その場で網ですくって調理していました)やマレーシアなどの地元産ですし、チリクラブ用の蟹(現地ではMud Club)は確かスリランカ産だったと記憶していますが、フカヒレ用の鮫のヒレは気仙沼産、干しアワビも日本産が最高級品とされ、アワビでは豪州産は日本産より落ちるとされていました

 シンガポールの中華やシーフード料理で蒸し魚に使う食材は、現地では「ガルーパ」と呼ばれていましたが、英語表記GAROUPER、日本語で言うハタで、九州のアラ(クエ)もハタ科の魚とのこと。
人数にもよりますが、大人数だと40~50㎝サイズがそのまま蒸されて出て来ますので、見た目も大変インパクトがありました。ガルーパは淡白な白身の海水魚でクエ同様にこちらも高級魚。少人数ではなかなか食べられません。蒸したガルーパが甘塩っぱい醤油味で味付けされ、白髪ネギや針生姜に香味油を掛けて香菜を載せて。但し、白身よりも、魚を食べた後で魚のエキスが出ている煮汁をご飯(タイ米です)にかけて食べる、“ネコマンマ”風のぶっかけ飯が何よりのご馳走でした。
(そういう意味では、同じく現地のシーフード料理の定番だったチリクラブで、カニの“身”そのものよりも、カニのエキスがいっぱいのチリソースを揚げパンにつけて食べる方がむしろ美味しかったのと良く似ています)。

 中華の高級料理である北京ダックやフカヒレ、上海ガニやチリクラブ、更に飲茶(ディムサム)などなど、お金を出せば東京だと何でも食べられるのかもしれませんが、地方だとガルーパやチリクラブは中華料理店でもなかなかお目にかかりません。
10数年位前から東京にはシーフードやシンガポールチキンライス(海南鶏飯)やホッケンミー、クイティアオなど、シンガポール料理専門の店も増え、懐かしくて上京した折に水道橋や田町、品川などの専門店に時々食べに行ったこともありましたが、さすがにガルーパはメニューで見た記憶がありません。
個人的には、フカヒレや北京ダックなどは別に食べたいとは思わないのですが、ガルーパだけはまた食べたい(特にぶっかけ飯で)と思うのです。

 そこで、自宅で挑戦してみることにしました。
というのも、ガルーパの蒸し料理はレシピそのものはそれ程複雑ではありませんが、何より鮮度が重要です。さすがに、クエやハタなど海無し県の信州ではお目にかかることはありませんが、白身魚であれば良いらしく、調べてみると、例えばイシモチ、イサキ、鯛なども使えそうです。
北陸からの「朝採れ直送」をうたい文句にしている「ツルヤ」でも時々尾頭付きでイシモチやイサキが並ぶこともありますが、種類が少ないので、前話での諏訪の「角上」へ行ってみることにした次第です。

 角上で購入したイトヨリダイとイシモチ。既にワタは取っていただいてあるので、レシピに沿い、軽く塩もみをして、臭み消しで青ネギとスライスした生姜とお酒(本来は紹興酒ですが、ここは料理酒で代用)を振って蒸します。イトヨリダイが大きいので蒸し器には入らないため、ラップでしっかりと包み“レンチン”で蒸すことにしました。
2尾で10分(レシピ上は一尾6分の指示)。大皿に載せ、5分毎に裏返して計10分。最後ラップが膨らむ位まで加熱され、素手では持てないくらいです。
お酒と魚から出た蒸汁も捨てずに、そこに砂糖と醤油で下味を付けてフライパンで加熱した上で魚に掛け、更に油(本来はピーナッツオイルの様ですが、無いのでゴマ油)をチンチンに熱して白髪ネギと針生姜を載せた魚にジュっと回し掛けて完成です。
 魚は十分に蒸されていて、白身はホクホク。シンガポールでのガルーパには叶いませんが、十分に“それらしく”食べられました。
問題は、味付けが少々塩気が強すぎたこと。どうやら、最初魚を塩で揉んだのですが、その量が些か多過ぎたのかもしれません。そのため、ちゃんとシンガポールを懐かしんでタイ米にしたのですが、肝心の“ぶっかけ飯”は些か塩味が濃い目。但し、奥さまは“ネコマンマ”は賞されなかたので、白身魚のお味は別に塩辛くはなく、味付けも大変美味しかったとの仰せでした。
 残念ながら期待以上とは言えませんでしたが、シンガポールの“ガルーパ”を十分に懐かしんで食することが出来ましたので、試行錯誤ではありますが、次回はもう少し改善出来ると思います。絶品の“ネコマンマ”を目指して・・・。
【注記】
もし分からなくても、店のスタッフがオーダーを取る時に、最初に前菜、次はスープといった順番で、何(何のスープ?例えばフカヒレなど)にするか聞いてくれますし、迷っていればその店のお薦めを教えてくれます。
前菜、スープに続いて、主菜(メインの魚や肉、更に野菜炒めなど数種類)、主食(麺類やご飯もの)、最後にデザート(シンガポールだとマンゴプリンやハニーデュー・サゴが一般的でしたが、胡麻団子なども)というコース料理の順番。ただ、別にその通りに頼む必要はありません。本当に食べたいものがあれば、ダブってでも食べたいものを食べれば良い。
庶民的なホーカーセンター(ローカルなフードコート)やシーフードセンターなどと違い、コース料理を頼む様な高級な中華料理レストランなら、料理が大皿で運ばれて来る際にスタッフが小皿に取り分けて円卓を客の順番で回してくれるので、自分の前に来たらその小皿を取れば良い。また人数によって、余った料理や蒸し魚料理ではメインのお頭を人数以上の小皿に取り分けて円卓に置いてあるので、後でホスト役がメインのゲストに勧めるか、また余ったなら(例えば北京ダックなど)更に追加して食べたい人が食べれば良い。
客として招かれた時や、現地の方々と一緒の公式のパーティーならともかく、現地の親しい友人ばかりなら余り神経質にならなくても良いと思います。
例えば、上記のガルーパの蒸し魚料理の時のご飯(日本の茶飲み茶碗くらいのサイズで、せいぜい日本でいうところの小ライスです)は、既にオーダーしてある主食(焼きそばやチャーハンなど。例えば、先述の北京ダックを頼むと、皮以外の肉の部分は最後の主食での焼きそばの具材として提供してくれる場合が多い)とは別に、都度追加で食べたい人だけの数をオーダーしていました。