カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>

 前話のシンガポール料理もそうなのですが、せっかくの東京なので信州ではなかなか食べられないジャンルのAsian Foodを!・・・となると、それは北インド料理です。しかも信州でも割と多いネパールの人が作るインド料理ではなく、正真正銘のインド人のシェフが作るホンモノのインド料理・・・です。
因みに、日本人である我々はインドカレーと言いがちですが、インド料理は決してカレーだけではありません。
今や“国民食”とまで云われる日本のカレーは、洋風料理のシチューやクリームスープの様に、明治になってイギリスから伝わった「小麦粉を炒めてトロミを付ける“英国風カレー”」です。しかも英語のCurryという言葉は“大航海時代”にイギリスが名付けたモノで、語源はインド南部でソースや汁を表すタミール語のカリ(Kari)から転じたという説が有力なのだそうです。従って、インドには本来カレー(Curry)という言葉(料理)はありません。
(以上、後述する先輩がシンガポールに送ってくれた、日本のカレーの歴史を書いた本で知った知識です)
最近東京では南インド料理の店が人気で増えていますが、個人的にはお米が主食でカリー(カレーと書くと、どうしても日本の“国民食”であるハウスやSBのカレーをイメージしてしまうので、区別するために敢えて“カリー”とします)もスープ状の南インド料理ではなく、インド料理ではやはりマハラジャの宮廷料理で用いられるタンドール釜に代表される、カリー自体も南に比べてとろみのある北インド料理の方が断然好みです。

 六本木や虎ノ門方面に歩いていると、「あっ、こんな所に」と思う程、小さなインド料理店が在ったりするのですが、神谷町界隈で調べてみると、評価が高かったインド料理店は二つありました。
一つは人気店でしたが、ランチタイムはバイキング形式なので我々年寄り夫婦はそれ程食べられないでしょうし、しかも専門はどうやら南インド料理の様なので、もう一つの店の方に行くことにしました。
その店は、メインの通りから一本奥に入った通りの、正則学園の対面に在る「ラージャ」というインド料理店。
店の外観から内装まで、インドらしい原色でカラーリングされていました。店内では“ボリウッド映画”がTVで放映されていて、12時前に入ったらお客さんは一組だけ。その後12時を過ぎると、インド人と思しき青年や会社員の方々など、満席にはなりませんでしたが結構込み合いました。
 お得なランチセットがあるようなので、その中からセットメニューのAとBをチョイス。Aセット(890円)はインドカリーが一種類、B(1050円)が二種類で、それぞれミニサラダとドリンクが付き、主食はライスかナンが選べて、どちらもお代わり自由の食べ放題とのこと。カリーは、二種類のBセットは小さめのボールで。一種類のAセットは大きめのお皿に入ってきます。
ランチタイムのカリーは6種類に限定されていて、あまり多くはありません。Aセットの家内は、ホウレンソウのカリー、Bの私はチキンと野菜をチョイス。辛さを聞かれるので、私は中辛でお願いしました。そしてタンドール釜があるので、単品メニューでタンドーリチキン(1個200円だったか?)も注文。他にも、メニューには骨なしのチキンティカやインドの揚げ餃子のサモサもありました。
 タンドーリチキンの味付けは本格派で、シンガポールで食べた味に近い感じです。松本の「DOON食堂インド山」も、この信州の田舎で食べられるのは本当に“奇跡”と思えるくらい本格的なインドの味(店主のインド人のアシシュさんの“お袋の味”で、実家のお母さんが調合したスパイスそのままで、変に日本人向けにアレンジしていない)なのですが、残念ながら“北インドの家庭料理”故に(一般家庭には)タンドール釜は無いので、ナンも勿論ですが、タンドーリチキンを食べるのは本当に久しぶりです。
因みに、奥さまは昔松本のインド料理店(既に閉店)で食べて胃をこわし、以来インド料理が苦手でしたが、「DOON食堂インド山」で食べてからはインド料理がまた食べられるようになりました(アシシュさんに以前その話をしたら、「インド料理で使うココナッツオイルやピーナッツオイルが、もし質が悪い物を使っていると日本人の胃には時々合わないことがある」と言われていました。
その後東京でも、長女が連れて行ってくれた虎ノ門ヒルズの南インド料理店「エリック・サウス」(後で知ったのですが、都内に数店舗を構える有名店でした)を家内が絶賛していましたので、改めて二人でインド料理が食べられるきっかけになった「インド山」には感謝!です)。
シンガポールで毎月一二度、北インド料理を(今は無き名店「モティ・マハール」へ)、同じインド料理好きだった赴任者の後輩と二人で食べに行くことが多かったのですが、食べる時は決まって先ず前菜的にタンドーリチキンと何種類かのサモサ(謂わばインドの揚げ餃子)を頼み、カリーにはライスではなく専らプレーンとガーリックのナン一辺倒で、チキン、マトン、プラウン、野菜は二種類といつも5種類程頼んだカリーをちぎったナンに付けて食べていました。
同じ食材一つでも色々な種類のカリー(但しメニューにCurryという表記はされていません)があるのですが、我々はメニューを見ても“〇〇マサラ”と言われても全く分からないのですが、さすがに我々も馴染みの常連客になっていましたので、チキンやプラウンなどと食べたい食材を伝えるだけで、後のチョイスと辛さはいつもマスターにお任せしていましたが、どれが出て来ても常に絶品でした。
しかし「モティ・マハール」は決して高級店では無く値段もリーズナブルで、或る意味安っぽく見える様な現地風の内装でした(特に昔の現地風のトイレは、日本からの出張者や旅行者には抵抗感があったかもしれません)ので、時々白人客はいても私たち以外の日本人客は見たことがありませんでした(一度出張者を自腹で接待するために連れて行ったら、「こんな店に連れて来て」と文句を言われましたっけ・・・。逆に味に感動して、帰国後に日本のカレーの歴史が掛かれた本を送ってくれた先輩もいました)。
因みに、今やシンガポールの名物料理の一つとなったフィッシュヘッドカレー(Fish Head Curry)がありますが、これは港で捨てられる大きな魚の頭が勿体無いと、インド人労働者が南インド風に調理したシンガポール独特の料理。現地では「バナナリーフ・アポロ」が有名店でしたが、純粋な北インド料理ではないので、私は一度も食べたことはありませんでした。
 こちら「ラージャ」のランチタイムのナンはプレーンですが、結構大きくて女性ならこれ一枚で十分。他のテーブルを見る限り、ライスはどうやらターメリックライスの様です。最初にミニサラダが出て来て、日本のどのインド料理店でも定番と思しき、人参ベースと思われる定番のオレンジ色のドレッシングが掛かっています。
途中でナンの追加をお願いすると、お店のスタッフからは半分の大きさじゃなくて大丈夫か(暗に、本当に全部食べ切れるのか?)と言われましたが、勿論普通の大きさのナンを追加でオーダーして、家内のホウレンソウ含めカリーは全てキレイに平らげました。ただ、今回もカリー自体はもう一つでした。
 帰任後にこれまで何度か北インド料理を食べた東京や、またインドのチェンナイからバンガロールを経てムンバイへも出張したこともあるのですが(ホテルでの朝食を除き、昼夜毎回“インド料理”。きっと現地のローカルスタッフが気を使って、その地の評判店へ連れて行ってくれた筈ですが)、シンガポールで食べた以上の北インド料理には残念ながら今まで出会えてはいません。
今となっては“幻”の、あのシンガポールの「モティ・マハール」に負けない北インド料理のレストラン、どこかに無いのかなぁ・・・?

 蛇足ながら弁解がましく言えば、店毎にスパイスの調合は異なり、むしろそれがその店の個性であってウリなのでしょうから、要するにその店のスパイス調合が自分の嗜好に合うかどうかなのかもしれません。
つまり自分にとっては、初めてインド料理の美味しさに目覚めさせてくれた、“あの”「モティ・マハール」の味の記憶がそれだけ鮮烈であって、その絶対的な記憶を自分の舌がどうしても忘れられないだけなのかもしれません。