カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>

 5月25日のザ・ハーモニーホール(松本市音楽文化ホール。略称“音文)。
Jazzピアノ界の巨人、チック・コリアの松本公演が夕刻行われました。本公演は早々にソールドアウト。6時半開場少し前に到着したのですが、駐車場はほぼ満杯で、係員の方の指示で何とか駐車。ホール前は既に開場を待つ方々で長蛇の列。音文の事務局で「ぶらぁぼ」の最新号を貰ってから先に並んでいる筈の奥さまを探すと、お友達と談笑中。お二人共趣味のジャスピアノやボーカルをされる多彩な方々だそうで、私メもご挨拶。
 客層や雰囲気はいつものクラシックの演奏会とは少し違いますが、何となく開演を待つ熱気が満ちているようです。ステージ中央には、この日のコンサートピアノとしてヤマハCFXが鎮座。今回のJapan Tourをヤマハがサポートしているのか、或いはこの規模のホールとしては異例の4台のフルコンサートピアノを備えるという音文の所有するヤマハか・・・。以前NHKスペシャルだったか、今年のショパンコンクールでのピアノメーカーの“戦い”を大変興味深く見ました(本選出場者では、ヤマハを選択したピアニストが一番多かった)。

 定刻前のアナウンスが流れ、今か今かと待つ中、5分程遅れて登場。Jazzミュージシャンらしく、上下デニムでコーディネイトし、ナイキのスニーカー。記憶に残る昔のチック・コリアは、黄色いサングラスを掛け、目が大きくギラギラした印象でしたが、目の大きさは相変わらずも、白髪で人懐っこい笑顔の初老のオジサン然(御年74歳!)。ご自身のスマホを取り出して(記念に?)客席や自撮りをして会場を和ませ、
 「何も準備をしてないので、今日は練習室という設定で・・・」
とのジョークで、楽譜の中から「ヨシ、これだ!」とばかりに選んで先ずは指慣らしというジェスチャーで演奏開始。続いて同じく「17世紀のスカルラッティ」との解説でソナタから2曲。次第にJazz風のアレンジが加わり、バロックの珠玉の小品が、スカルラッティらしさも残しながら現代風に姿を変えて行くのが実に興味深い。
「次は18世紀のモーツァルト。5歳の時の小品」とのプレトークで、優しいメロディーがやはりJazzの作品に変貌。
「今度は19世紀に飛んで、スクリャービン」から続けて2曲。
そして現代の曲から、アントニオ・カルロス・ジョビン(後で知った、ボサノヴァ音楽の創始者で「イパネマの娘」も彼の作品)の「デサフィナード」、ジャズピアニストのセロニアス・モンクの作品から「ラウンド・ミッドナイト」と「パノニカ」。最後に“モダンジャズの元祖”と云われるバド・パウエルの「オブビリオン」で前半終了。
途中、ラグタイム風のアレンジがあったりして、チックのJazzピアノが、時代を軽々とまた鮮やかに超越して行きます。
不思議なのは、リラックスして指先から流れるようにメロディーを刻みながら、抜群の切れとスピードもあり、決して重くなく軽やかに飛翔しているかの様。
 休憩中ロビーに行くと、CDはもう数枚しか残っていませんでした。開演前に殆ど売れてしまったそうです。出来ればCDを購入して、手持ちの中にあったエレクトリック・バンド時代の“Eye of the Beholder”(外国盤なので、どうやらシンガポール時代に購入したらしい)と一緒にサインをしてもらおうかと思ったのですが、今回は演奏会後のサイン会は無いようで、残念・・・。
後半は、彼自身の曲が中心。「サ・イエロー・ニンブズ」に始まり、小さい頃の家族(チックの父上はジャズ・トランぺッターだった由)での遊びだと説明して、客席から男女1名ずつの希望者をピアノの横に座らせ、その印象を即興で奏でる「ミュージック・ポートレイト」“音の肖像画”。
また、やはり希望者を募り、彼が低音部でリズムセクションを奏で、それに乗せてゲストが奏でたフレーズを使って、アレンジを重ねて行く即興でのジャム・セッション。それにしても、名乗りを挙げるだけあって皆さんもお見事。チックのサポートとはいえ、特に若い男性のピアノはちゃんとジャズになっていました。
そして、「昔作った曲だけど」と言って「チルドレン・ソング」“Children’s Songs”から7曲。
後半最初の「パコに捧げた曲だ」と紹介して演奏された曲名の「ニンブズ」の意味が分からず、翌日確認をした音文のH/Pに掲載された後半プログラム曲もカタカナで、最初“nymph”(妖精)の複数形かと思いましたが、辞書で調べると濁りません。分ったのは「光輪/光背」という意味の、元々はラテン語が語源の“Nimbus”。仏像の光背も英訳すれば同じですが、良くキリスト教の宗教画で聖人の頭の周りに描かれている光の環のこと。だとすれば「黄色い」という意味も分かります。なお、「パコ」はフラメンコ・ギターの天才パコ・デ・ルシアだそうで、生前チックとも演奏などで交流があった由。「あっ、そうだ」と演奏前に譜面台を外しましたが、“The Yellow Nimbus”では、ピアノの弦を指や爪で弾く奏法があり、如何にもチック・コリアらしいフュージョン的(Jazz Fusion)な作品でした。「内部奏法」をするのであれば、やはりホール所有のコンサートピアノではなく、今回のツアーを支援するヤマハのCFXが各会場に持ち込まれているのでしょう(家に帰って会場で渡されたチラシを見ていたら、ちゃんとCFXのPRチラシが入っていました)。
それにしても、中には(クラシック・ピアノでも)コケオドシ的に大きなジェスチャーで打鍵する(例えばユジェ・ワンの様な)ピアニストも結構多い(コンチェルトでフルオケと対峙するためなら分りますが)中で、ffであってもどうしてこんなにも自然に流れるように弾けるのだろう・・・。でも、どんなに早いパッセージであってもリズムにキレがある。凄い!というか、さすが!というか・・・。体は自然とスィングしながら、いくらJazzの神髄はアドリブとは言っても(事前に計算ずくのステージ構成だとしても)彼のイマジネーションに唖然として聞き惚れていました。

 盛大な拍手に応え、「もう遅いけど、まだみんな時間あるかい?」と、客席に呼び掛け、「じゃあ・・・」と言って呼び出したのは、ナント客席後方に座っていたらしい・・・えっ、小曽根真さん?・・・!!。
今回のジャパン・ツアーは殆どの公演が小曽根さんとのピアノ・デュオで、翌日は愛知県の守山でのコンサートでしたので、ずっと同行されているのでしょう。それにしてもサプライズ。小曽根さんは5ヶ月前にこの音文でコンサートをしたばかりでしたので、スペシャル・ゲストの登場に客席も大盛り上がり。ラフな上下黒のTシャツ&ジーパン姿で早速ステージに登壇し、交互に低音部、高音部を交替しながら即興での連弾。場内は大歓声に包まれました。最前列の皆さんと握手を交わした後、チックが促して客席全員がスタンディングオベーションで手を振り拍手を送る中、にこやかにステージから下がって行きました。

 夜の10時近くなった音文からの帰路、群馬ナンバーや八王子ナンバーの車が前を走って行きます。3ヶ所のみというソロコンサートでしたので、わざわざ松本まで聴きに来られたのでしょう。
どうやら群馬へは三才山峠越えのルートの様です。「これから群馬までは大変だなぁ・・・」と、道中の無事を願わずにはいられませんでした。

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