カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>

 初めて訪ねたのが7年前の秋。そして昨年の春に二度目の見学をしたポーラ美術館。この日は一日雨予報だったので、ヒメシャラの森の1㎞にも及ぶ木道の遊歩道散策は無理ですが、館内でじっくり名画を見て、その後でゆったりと雨に煙る外の森を眺めながら喫茶室でノンビリするのも良いだろうと、この日三度目の訪問になりました。
 これまで訪ねた美術館の中では、個人的にはこのポーラ美術館と山種美術館が一番のお気に入りなのですが、例えば広尾の山種美術館などは月曜日が定休日で、以前知らずに訪ねて休館だったことがあった(事前にちゃんとチェックしなかったこちらが悪い)のですが、ポーラ美術館は企画展の開催期間中は無休とのこと。
ポーラ美術館は箱根という観光地に在るので、都会の美術館と違い、箱根には観光で来て滞在日程が限られる観光客にとって(企画展の期間中)無休というのは本当に有難い限りです。その代わり、その企画展が終わると、次の企画展への展示作品の入れ替え作業のために10日間程休館するのだそうです。

 このポーラ美術館は創業家の2代目の方が数十年に亘って収集した美術品約9500点を展示するために、「箱根と自然と美術の共生」をコンセプトに2002年9月に開館した美術館で、モネ、ルノワール、セザンヌ、ゴッホ、ピカソといった西洋絵画を中心に、黒田清輝、岸田劉生、杉山寧など日本の絵画、東洋陶磁やガラス工芸から現代アートに至るまでの、世界的な評価の高い作品1万点を収蔵し、特に印象派のコレクションは日本最大級を誇ります。
しかし、この美術館の魅力はその収蔵作品だけではなく、箱根の国立公園の立地を生かして、ヒメシャラやブナなどの広葉樹林の中に全長約1kmにも及ぶ木道の遊歩道が設置されていて、林間に置かれた彫刻などのオブジェとその見事な大木のヒメシャラの林の中を、風の音と小鳥のさえずりを聴きながら、四季折々、例えばこの時期なら山桜や馬酔木の花と木々の芽吹きを愛でながら散策出来ることです。
ビル街の中に在る都会の美術館では決して味わえない、箱根の仙石原の森に在るからこその贅沢な癒しの時間であり、ここでは絵画鑑賞だけではなく素敵な森林浴をも楽しむことが出来ます。まさに“自然との共生”が実現されているのです。
 今回の開催されていたのは、「カラーズ ― 色の秘密にせまる 印象派から現代アートへ」と題した企画展で、その説明に依ると、
『近代から現代までの美術家たちが獲得してきた「色彩」とその表現に注目し、色彩論や色を表現する素材との関係にふれながら、色彩の役割についてあらためて考察するものです。チューブ入りの油絵具を巧みに扱い、さまざまな色彩によって視覚世界を再構築した19 世紀の印象派や新印象派をはじめ、20世紀のフォーヴィスムの絵画や抽象絵画、そして色彩の影響力によって観る者の身体感覚をゆさぶる現代アートにいたる近現代の色彩の歴史を、おもに絵画や彫刻、インスタレーションによって読み直します。』
とのこと。
モネやルノワールの印象派に始まり、新印象派、20世紀のフォーヴィスムや戦後の抽象表現主義など、近代から現代にかけて、3つの展示室に分けて3部構成により西洋美術の歴史を辿ることの出来る主要な画家の重要な作品が数多く展示されていました。
“色”については、19世紀になってフランスで誕生した色彩論の発展等もありますが、ピカソの「青の時代」の「青」やレオナール・フジタの「白」に関する現代科学に依る分析結果も大変興味深かったです。
 その中で特に印象に残ったのは、坂本夏子という方の作品でした。「タイル」と「シグナル」と呼ぶドットの有機的な「色」の組み合わせで描いて行く作品の、まるで日本画の花鳥風月にも通ずる様な、一瞬時が停まったかの様に無音の“静寂”を感じさせるその色彩の美しき緊張感・・・。

そして、スポットライトと組み合わされた「ステンドグラス」の背後の壁に映し出された色彩の不思議な幻影・・・。
「絵を描くことは、終わりのない課題を解き続けること」という坂本夏子女史。何だか“描く哲学者”と言ったら見当違いでしょうか・・・??
他の作家の作品でも「半透明な布を支持体にして、水を多く含んだアクリル絵具を布に沁み込ませた」というグオリャン・タンという作家の作品。「もしかしたら」と、何となく気になって会場に居たスタッフの方に尋ねるとちゃんと調べて下さって、結果は予想した通り「シンガポール出身の方だそうです」。
嘗てシンガポールに7年間暮らしてお世話になった身として、当時の現地の人たちは先ずは“衣食住”を豊かにすることに精一杯(と感じました)で、例えばシンガポール国立博物館に行っても作品は昔の中国や欧米の作家中心で自国の作家の作品などは無く、また毎月聴きに行ったシンガポール交響楽団(SSO)の定期でも聴衆は殆ど白人ばかりだった(因みに楽団員も殆どが欧米や中国出身の演奏家ばかりで、例えば当時のコンマスはシンガポールに移住したパヴェル・プラントル氏でチェコ出身。娘がピアノを習っていたマルチナ先生が奥さまでした)時代を知る者として、“衣食足りて礼節を知る”ではありませんが、2023年から日本フィルハーモニーの首席指揮者に就任したカーチュン・ウォン氏とこのグオリャン・タン氏も同様に、国が成熟してシンガポールでも漸く芸術分野にそうした才能ある人材が出て来たことを知って感慨ひとしおでした。
坂本夏子、グオリャン・タン始め、展示されている色彩のマジックの様な作品を見ていると、何だか不思議な色彩感覚に包まれるようでした。
その最たる世界として、今回の企画展の中にも草間彌生の「無限の鏡の間 ―求道の輝く宇宙の永遠の無限の光」と題された2020年の作品を展示した個別の部屋があり、時間限定、人数限定でその部屋に入室して鑑賞出来るとのことで、そこだけは順番待ちの行列だったのですが、松本市美術館でも見られる作品同様に、今回は特に息苦しくて耐えられる自信が無い様な気がして家内共々遠慮しました。
また企画展とは別に、今回のコレクション展として、ポーラ美術館が新たに収蔵したというピカソの版画芸術の最高傑作とされる『ヴォラール連作』全100点などが展示されていてこ、ちらも見応えがありましたました。
 このポーラ美術館で有難いのは、最近では他の美術館や絵画展でも少しずつ増えては来ましたが、多くの絵画作品がフラッシュ無しでの撮影がOKなこと。展示では撮影禁止の作品のみNo Photoのマークが付いています。
コロナ禍の影響もあったようですが、クラシックコンサートでも同様に(最近のコンサートでは、カーテンコール時のみ撮影OKという演奏会が都会では増えています)、SNS等で写真を掲載して貰うことで拡散して集客に繋げようとの狙いだそうですが、本当に良いことだと思います。
コンサートホールも美術館も上品ぶって“お高く”留まることなく、(モナリザさえも撮影OKのルーブルを始めとする海外の美術館同様に)お客目線に立って如何に喜んで足を運んでもらうか、更に子供たちも含めて今後のファン層拡大に如何に繋げるか・・・の方が、経営面においても遥かに重要だと思います。
この箱根には「ノブレス・オブリージュ(noblesse oblige)」をはき違えた様な、二度と行く気にもならない成金趣味の“これ見よがし”の美術館もありましたが(どうやら有名作品を所蔵していること自体に意義≒自慢に感じておられているのか収集の中心軸がハッキリせず、また展示内容でも例えば重要美術品だという銅鐸や埴輪に考古学的に重要な情報である出土地が記載されていないなど、学術的な作品紹介や時代背景等の解説が不親切だったり、展示品リストの通し番号が展示作品自体には書かれていなかったりとお粗末の一言)、そことこのポーラ美術館とではその精神に雲泥の差を感じます。
 国立公園の林の中に佇む様に建てられたポーラ美術館。景観を圧迫しない様に、周囲の木々よりも低い地上高8mの高さに収められたという、地上2階地下3階という5層の建物で、建物そのものも作品でしょう。最上階である2階に入口があって、そこからエスカレーターで下って行く構造です。
地下2階の常設展の展示を見終わり、地下1階の「CAFE TUNE」へ。斜面を活かして、自然光も取り入れられた地下1階とは思えぬ開放的な空間で、天井までのガラス窓が開放的で、その向こうにはヒメシャラの森が拡がるオシャレで素敵なカフェです。
前回は1Fのレストラン・アレイで優雅にランチをいただきましたが、今回はしっとり濡れた雨の森を眺めながら、絵画鑑賞後ノンビリゆったりとカフェタイムを楽しみました。

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