カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>

 社会人となって、6年半の海外赴任中(シンガポールでは、紀伊国屋書店で購入)も含め、35年間毎号欠かさず購入して読んできた、隔週発行のビッグコミック・オリジナル(小学館)。

 現在連載中の「ひよっ子料理人」や「深夜食堂」、復活した「Masterキートン」など珠玉の作品群の中で、今一番ハマっているのは、前座からの落語家修行を描く尾瀬あきら作『どうらく息子』です。
落語家柳家三三(さんざ)師匠の監修も手伝い、落語界や古典落語など、噺家の世界が実に丁寧に描かれています。

 保育士を辞めて26歳で惜春亭銅楽師匠に弟子入りし、前座から、失敗を重ねながらの厳しい修行の中での、周囲の人々の暖かな応援と交流の中で少しずつ成長していく惜春亭銅ら壱こと関谷翔太。そこに飲んだくれの夢六師匠の復活や名人慎蔵師匠の愛情、前座同士のあや音との不器用な恋などが絡みつつ、ほのぼのと、そしてまたしみじみと、古典落語の世界と相俟って味わい深く描かれていて、併せて一昨年初めて歌丸師匠と円楽師匠の生落語を聴きに行ったほどに落語の世界にも興味を持ちました。

 尾瀬あきら氏と言えば、代表作「夏子の酒」はシンガポール時代に、日本酒とりわけ地酒の深さに目覚めた際のバイブルでした。他にも、オリジナルで連載された「光の島」や酒造りを描く「蔵人」もありました。しかし、この「どうらく息子」は、時に涙し、時に笑い・・・プロの落語家がキチンと監修しているのも手伝い、手抜きが無く、落語の人情話同様に何とも温かくなる作品だと思います。

 何度も読み返した夢六師匠の「芝浜」や慎蔵師匠の「紺屋高尾」(生で初めて聴いた歌丸師匠の演目でした)など、いつもは読み終わると資源ごみに出してしまうのですが、まだ捨てられずに手許にとってあります。
そして、慎蔵師匠の粋な計らいで遂に二ツ目昇進が決まり、夢六師匠から約束の稽古を付けてもらったばかりの大根多(ネタ)「紺屋高尾」を朝霧亭でのお祝いの高座で見事に演じ切りますが、見開きで描かれた満開の桜の中を高尾が久蔵の元へ向かう情景などは、モノクロなのに色彩が鮮やかに感じられて、これまた涙、涙の感動モノでした。
「紺屋高尾」の久蔵と高尾太夫ばりに「二ツ目昇進まで3年間待って欲しい」と言ったあや音との恋の行方も相俟って、今後の展開に期待してまーす!
【追記】
お馴染み村松誠さんの2月5日号の表紙絵。
バックは直ぐに尾形光琳の最高傑作と云われる国宝「紅白梅図屏風」(MOA美術館蔵)がモチーフと分かりましたが、メインとなる一匹の猫。
毎号村松さんは細密な犬や猫を描かれていますが、今回の猫のポーズをどこかで見た気がする中で思い出したのは、振り向きが左右逆ではありますが、以前実際に生で見た竹内栖鳳の重要文化財「斑猫」(山種美術館蔵)。ご本人は謙遜されていましたがなかなかどうして、実に見事でありました。