カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>

 以前もご紹介(第393話)したように、平日のリンゴの箱詰めの夜なべ仕事で疲労困憊の中、元気が出るように深夜の作業場で聴いていたのがマーラーの交響曲第1番“巨人”(略してマラ1とか)。特に壮大なファンファーレが鳴り響く第4楽章(最初に付けられた表題も「地獄から天国へ」・・・)は、まさに“元気の出るマライチ”でした(その次には、チャイコの5番とサン=サーンスの3番「オルガン付き」でしょうか)。
 いつか生で(せめて一度は。“チャイ5”は思いがけず3度も聴けました)聴きたいと思っていたのですが、2010年の生誕150年、2011年の没後100年と二年連続でのマーラーイヤーも過ぎてしまったので、最近は演奏回数も減り、これまで聴く機会もありませんでした。
ここで学生時代に時々聴いたり、また第九でも一緒に歌わせていただいた京都市交響楽団(当時の常任は、今は亡きヤマカズさん)が、東京公演でマライチを演奏すると知り(他にも数団体が演奏するようで、東京シティ・フィルは5月でスケジュールが合わず、また比べれば久し振りの京響の方に関心がありますし、来日オケでは1月のオスロフィルや、名門フィラデルフィア管も6月の東京で演奏するようですが、最低でも1万円以上するので諦めました)、まだ行ったことのないサントリーホールで、しかも日帰り可能なマチネだったことから、発売開始から既に4ヶ月近くも経っていましたが、何とか並びで端の席を確保することができました(最終的にはチケット完売とか・・・。最近好調を伝えられる広上&京響コンビ、恐るべし!)。クラシックの殿堂、“サントリーホール・デビュー”です。

 3月16日。朝暗い内に、チロルとナナの散歩を済ませ、6時台の高速バスで新宿へ。奥さまは午前中別件があり、私メは一人上野へと向かいます。
都美術館での特別展(次回ご紹介予定)を見てから、午後ホール正面で待ち合わせ。
 プログラムは、94年チャイコフスキーコンクール最高位というロシアのピアニスト、ルガンスキーでラフマニノフの2番と休憩を挿んでのマーラーの1番“巨人”。指揮は常任広上淳一氏。
「ぶらぁぼ」3月号でのマエストロの紹介記事によれば、6年間鍛え上げた京響を率いて、満を持しての東京公演での“巨人”選曲は、「弦と管のバランスやアンサンブルなど、オケの力量が試される楽曲だから」とのこと。
ヴィンヤード型ホールは、ミューザ川崎以来2度目。席も前回チェコフィルと同じ2LA(正面ステージに向かって、左手後方2階席部分)。
テンポを揺らしながら、如何にもロシアの男性ピアニストらしく、力強くてロマンチックなラフマニノフでした。席の場所にもよるのか、オケはやや弦が管に埋没気味。アンコールにラフマニノフと同世代のメトネルの作品(イリーナ・メジューエワさんが盛んに取り上げておられます)。
実は、開場前にホールの外通路にある喫煙所で、練習中のラフマニノフのパッセージが聞こえて来ましたが、音の透明感が何とも印象的でした。
 休憩後、お待ちかねのマーラーの交響曲第1番。指定通りの4管編成で、ホルンは7本。ステージに団員が溢れそうです。
演奏は、地方オケの満を持しての東京公演という情熱もありましょうし、一言でいうと、意欲的で若々しく熱気に溢れた“マライチ”でした。
これまで、BSで見たラトル&BPOやCDで聴くオザワ&SKOのライブに比べれば、技量的な巧さでは負けてはいても、全身からほとばしるような指揮者の情熱もあって、オーケストラもエネルギー全開。打ち鳴らされる打楽器と咆哮する管楽器群は勿論、人数の増えた弦楽器群も前半とは見違えるような音の厚みで、ホール全体を揺らすほどの熱演でした。
学生時代に聴いた、半世紀近く前のこじんまりした京響とは別オケの様相。半信半疑だった、「関西楽壇で、今や大フィルを凌ぎ京響が一番!」という評判も頷けます。朝比奈さん時代の大フィルの様な“熱いオケ”になりました。
2LAの席から斜め正面に見る広上さんは、一見メチャクチャ踊るような指揮振り(外観からすると、失礼ながら“タコ踊り”風?)ですが、その踊るように全身を使ったジェスチャーでの感情表現と指示は的確。時折、特に管楽器に向けて左手でサムアップしてのグッドを何度も示しながら、にこやかな表情で団員を統率していきます。正面から見るマエストロは、団員や聴衆からの圧倒的な支持というのも納得の指揮振りでした。
「こういう指揮もあるんだ・・・。」
全体にゆったりしたテンポで、第一楽章の「はるか遠くで」というバンダ(舞台袖)での3本のトランペットや、第2楽章でのオーボエやクラリネットの“のだめ張り”に持ち上げての奏法(ベルアップ)、葬送行進曲の第3楽章冒頭の「足を引きずるような」というコントラバスソロ、そして第4楽章コーダへ突入するファンファーレでのホルンパート全員の起立・・・、いずれもマーラー自身による細かな楽譜指示通りとか。
「やっぱり、生で聴く1番はイイなぁ。」
しかも、青年マーラーの苦悩から歓喜へという曲想が若々しいオケに合っていて、スカッとした快演で、元気を一杯もらった気がします。
ブラヴォーが飛び交い、鳴り止まぬ拍手に応えてのアンコールは、R・シュトラウスの歌劇「カプリッチョ」から間奏曲とか(その前に、「京都に観光がてら、ぜひ京響を聴きに来てください」とのマエストロのPRもあり。因みにパンフレットによると、3月30日のE-テレで、同じプログラムでの京都定演が放送予定とのこと)。

 奥さまも殊の外堪能されたようで、「また、マーラーの1番が聴きたぁい!」とのこと。「ちょっと高いけど、6月にフィラデルフィア管がまたここで演るけど・・・」と言うと、「それでもイイ!」との仰せに、「オイオイ・・・」。
平日で、その日は既に重要会議予定が入っているので諦めてもらいましたが、今日のような熱狂的な生“マライチ”を聴けば、その気持ちも良く分ります。

 松本からでも日帰りで聴きに行けるように、またどこかの在京オケがマチネで取り上げてくれるのを探そうと思います。
「あとネ、サン=サーンスの3番も元気が出るんだけどさぁ・・・」