カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>

 9月20日東京芸術劇場での、読売日響による“オルガンと管弦楽の華麗な響き”と題されたマチネコンサート。
サン=サーンス作曲「交響曲第3番“オルガン付き”」を、是非一度生で聴きたいと思っていました。因みに、手持ちのLPとCDがミュンシュ&BSOと、同じくCDでデュトワ&OSM。60年近く前のミュンシュ盤が、我がイチオシ。
この交響曲は“オルガン付き”の名の通り、壮麗なパイプオルガンが演奏されるので、オルガン常設のホールでないと演奏出来ません。
松本のハーモニーホールにも、パイプ数3000本という県内唯一の立派なコンサートオルガン(第842話参照)が常設されていますが、700席の規模では、フル編成のオーケストラコンサート開催は数年に一度ですので、地元で聴く機会は殆ど皆無。国内でもパイプオルガン常設のホールが随分増えましたので、最近では、フランス系オケの来日公演や国内オケのフレンチ・プログラムなどで、この曲が演奏される機会が首都圏だけでも年に数回と、昔に比べると随分増えたように思います。

 気を付けてコンサート情報をチェックしていたところ、チケットの高い海外オケではなく、読響がマチネで演奏すると知り、しかも会場がパイプ数8000本という国内最大級のパイプオルガン(しかも裏表反転式)を備える東京芸術劇場で、オケが金管パートも定評ある読響ですので、発売日に早速ネット予約で(奥さまに)チケットを取ってもらいました。指揮は下野竜也氏(読響首席客演指揮者)。

 奥さまは別件があり、数日前から娘たちの所に先に行っており、私メは日帰りで当日早朝の高速バスで移動して新宿で待ち合わせ。その後、赤坂見附のホテルへ移動し、展望レストランで、下の娘の転職祝いと長女夫婦の結婚三周年のお祝いを兼ねての昼食会の後、彼等を残して、我々は池袋の東京芸術劇場へ向かいました。
 当日のプログラムは、J.S.バッハ「トッカータとフーガ」(ストコフスキー編)、プーランク「オルガン、弦楽、ティンパニのための協奏曲」(オルガンは芸劇オルガニストの小林英之さん、ティンパニが読響首席の岡田全弘さん)、そして休憩をはさみ、サン=サーンス「交響曲第3番“オルガン付き”」という、オルガンにちなんだ構成(この日のコンサートマスターは、元VPOコンマスのダニエル・ゲーテさん)。
有名な「トッカータとフーガ」も、ストコフスキーの編曲版で聴くのは初めて。大編成だと、何だかスケールが大き過ぎて、バッハではないような感じがします。8本並んだコントラバスの分厚い響きが印象的。
初めて聴くプーランク作品。管楽器の代わりに、大型管楽器とも謂えるパイプオルガンが用いられ、何となく宗教音楽的色彩のする作品でした。
この日使われたパイプオルガンは、裏表反転式の中で、仏ガルニエ社製のモダンオルガンとか。過去2回の演奏会の時は、バロック様式のオルガンが正面に鎮座していたと思いますが、今回はフランスの近代モノの作品なので、モダンオルガンが用いられたようです(何故か、仮面ライダーのショッカーを連想してしまいます)。
 今回は一回券発売初日に購入したのに、シーズン会員券先行発売で人気だったのか、S席はもう良い席が無く、A席でしたが、3階席の前から2列目のほぼ真ん中。巨大なオルガンと正対する席で、音響的にも大変良い席でした(ソロを聴くには少し遠いかもしれません)。
このサン=サーンスの交響曲第3番は、循環主題が用いられた2楽章形式で、各楽章2部構成。日本のオケにフランス的なエスプリを求めるのは難しいにしても、とてもガッチリした演奏でした。生で聴く「オルガン付き」は、弱音でのオルガンの重低音もお腹に響いてきます。第2楽章2部冒頭のオルガンも大迫力。後半部は連弾で弾く、ピアノのトレモロも印象的。オルガンに負けじと、読響の金管パートも好演。この曲の大迫力の演奏を初めて生で聴いて、大いに元気をもらった気がしました。
因みに、当日の配布されたパンフレット「読響月刊オーケストラ9月号」の中に、「名曲の深層」と題し「オルガン付き」が取り上げられていて(音楽ライターの佐伯茂樹氏)、『当時フランスの音楽界では、交響曲は辺境国と見做していたドイツのジャンルとして卑下し、パリ高等音楽院の学生が習作として書く程度だったが、普仏戦争で1871年にフランスがプロイセンに負け、その一ヶ月後に祖国の音楽を極めるべく、サン=サーンスは、フランクやフォーレ等と共に「国民音楽協会」を設立し、27年振りとなる、新機軸の交響曲の作曲を目指した』とありました(ロンドン・フィル協会からの依頼により、1886年ロンドンで作曲者本人の指揮で初演)。華麗なオーケストレーションのこの交響曲に、ベートーヴェンやブルックナーのような高貴な精神性が見られないことを以ってあまり評価しない向きもあるようですが、敗戦に意気消沈していた国民に向けた国威発揚が、もしその本質にあるのだとしたら、“元気が出る交響曲”のままで良いのだと納得しました。

 演奏中あろうことか、第1楽章最後の消え入るような弱音部で、それを掻き消すように携帯のアラーム音が・・・。指揮棒が降ろされると、すかさず、一斉に非難の咳払いが会場内を包みました。その怒りで、ホールに妙な一体感が生まれ、逆に引き締まった終楽章になったような気がします。
  
 アンコールは、バッハの「フーガト短調」(小フーガ)。
バッハの原曲にストコフスキー編を重ねたのか、最初オルガンのみで演奏が始まり、途中からオケが被さるように加わって、最後大音量でフィナーレへ。この日の一方の主役であるオルガンとオケ双方を併せた、ユニークな小フーガでした。
アンコール演奏前から、何度もカーテンコールが繰り返され、鳴り止まぬ拍手に、最後コンマスのゲーテさん以下、客席にお辞儀をされて演奏会は終了。

 プログラムは、翌日みなとみらいでも演奏された由。