カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>

 夜なべ仕事の際の自身への応援曲でもある、マーラー交響曲第1番“巨人”。
LPではバーンスタイン&NYP、CDがワルター&ColSO、シノーポリ&PO、オザワ&SKOと手許にあるのですが、どうしても生で聴きたくて、これまで京響、読響と聴きましたので、さすがに「当分、もうイイかな?」と、今回が最後のつもり。
 今年9月から首席指揮者に就任するパーヴォ・ヤルヴィ指揮のNHK交響楽団第1802回定期演奏会(Aプロ)。場所は、残念ながらサントリーではなくNHKホール。N響は特別公演で地方も回るので、これまで県内で3回くらい聞いていると思いますが、NHKホールで聴くのは初めてです。
指揮者目当てならCプロ(シベリウスとショスタコ)やサントリーホールのBプロ(R・シュトラウス)の方が人気は高そう(殆ど完売とか)ですが、こちらは飽くまで生の“マライチ”が目的。
パーヴォ・ヤルヴィと云えば、お父上のネーメ・ヤルヴィ(エーテボリSO)のシベリウス3番のBIS盤が手許にあるのですが、日本で云う輸入盤ですので、シンガポール赴任中に購入したCDの様です。日本でも評判となったネーメ・ヤルヴィのシベリウスは、まだその頃はそれ程知られていなかった筈なので、何故選んだのか不明。その後揃えたシベリウスのCDはバルビローリ(同輸入盤)や日本で買ったカラヤンなどで、ネーメのBIS盤はこれ一枚。そのお父上も、また来年5月の定期でN響を振るのだとか。バリバリの現役です。

 さて、今回メインのマーラー交響曲第1番“巨人(Titan)”。
昨年、フィラデルフィア管やオスロフィル等も演奏したのですが、海外オケは高いので、信州からのお上りさんとしては(往復の交通費も考えると)、国内オケ(の熱演期待)で十分(但し、インバル&都響は聴けず、5番のみ)。しかも、今回は実力的には国内トップであろうN響ですし、指揮者が次期首席のパーヴォ・ヤルヴィとなれば、保守的な(≒「無難でソツのない演奏だが面白くない」と批判されることが多い)N響とは言え、今回は大いに期待できます(筈です)ので、聴き納めに相応しい組み合わせ・・・と確信しての(ポケットマネーでの)チケット購入。プログラムは、エルガーのチェロ協奏曲。前日がソワレで、日帰りが可能なマチネは二日目です。

 午前中に娘たちと会って、NHKホールへは1時半過ぎに到着。次女が小学校の時に合唱部で出場して銅賞を獲得した“Nコン”応援以来ですので、ホールに来たのは実に18年振り。
それにしても、生憎の冷たい雨模様とはいえ、並んでいた人たちの少なさに、一瞬「えっ?」と思ったら、私メが時間を間違えていて、一時間早く来てしまいました。奥さまからは非難ゴウゴウ(当然です)でしたが、お陰さまで(ロビーでビールを頂くなど)“いつになく”ゆったりと開演を迎えることが出来ました・・・(タハ)。客席は、ご贔屓の定期会員の皆さんなのか、他の演奏会に比べて年配の方々が多いような気がします。開演時には、ほぼ満席となりました。
当日のプログラムは、前半にエルガーのチェロ協奏曲(Vc独奏はアリサ・ワイラースタイン嬢)、後半にマーラー1番「巨人」。
場所は2階席前から12列で真ん中右寄りのA席。エルガーは、ステージ上だけで音が鳴っている感じで、二階席まで飛んで来ません。抑え気味のオケの好サポートに支えられたソロも艶やかな音色の様でしたが、その良さが十分に感じられずに残念でした。昔から音響の悪さを指摘されるホールですが、紅白など自前のイベントを開催するための3500人収容の大ホールとはいえ座席も狭く、最近音響の良いホールが増えただけに、音響も含め古びて見劣りがしてしまいます。
拍手に応えてのアンコールは、バッハの無伴奏チェロ組曲第3番から第4曲「サラバンド」。
 休憩を挟んだ後半は、お目当てのマーラー。
冒頭の弦楽器のA音から実に緊張感に溢れた演奏で、聴いている方も息苦しく感ずるほど。柔らかな木管群も、バンダを始めキレのあるTpパートもお見事。歌心に溢れたパーヴォの指揮は、消え入るような弱音のppと、爆発するようなffでディナーミクを効かせ、またアクセントを強調しゆったりとしたフレージングから、アッチェレランドを効かせたトゥッティまで変幻自在なアゴーギク。そして、パーヴォもオケを煽ること、煽ること・・・。しかし、大振りなジェスチャーも、ワルツでも踊るように実に優雅。アタッカで入る第4楽章もファンファーレと最後のコーダでのブラスの咆哮。オケも日頃TVなどで見慣れた(聴き慣れた)“落ち着いた”印象のN響とは思えないほどに、パーヴォに食らい付いて気合十分な熱演。正に青年のような若々しさを感じさせる演奏でした。
 「やっぱり、N響って上手いんだ!」
全くミスが無かった訳でもありませんし、最後熱演のホルンの息切れ(?)も全く気にならないほどに、感嘆符を幾つも付けたいような感動的な演奏でした。タクトが降ろされるやいなや、ウォーという唸り声にも似たブラヴォーと嵐のような拍手で客席も大興奮。聴き納め(?)の生“マライチ”に、これぞ「巨人」という納得の名演を聴かせてもらったような、そんな満足感に浸った演奏会でした。
なお、この日は、ゲストコンマスとしてRCOのコンサートマスターであるヴェスコ・エシュケナージさん(ノリントンさんの時とか、何回かTVで拝見)とのこと。
 今を時めくパーヴォ・ヤルヴィとN響の相性の良さも感じられ、この日の演奏からは、今までとはまた違ったN響の魅力を彼が引き出してくれるに違いないという、(パリ管の任期が切れたら、出来れば音楽監督として)大いなる期待感を抱かせるに十分でした。幸せな気分で、NHKホールを後に雨の上がった道を原宿駅に向かいました。

 「いやぁ、良かったなぁ・・・!」
 「あら、そうお?音が大きければイイってもんじゃないでしょ。サントリーホールのウィーンフィルの方がよっぽど良かったけどナ・・・」
どうやら、冷たい雨の中を駅から10分も歩かされ、しかも時間を間違えて一時間半も待たされたのが印象を悪くしたようです。
 「じゃあ、今度はサントリーホールでN響を聴いて見ますか~!?」