カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>

 作家浅田次郎著作の時代小説「一路」(中公文庫)。
前回「壬生義士伝」(第971話)を取り上げましたが、その前に読んでいた「地下鉄に乗って」や「日輪の遺産」等には今一つ感心(感激)せず、氏の著作を避けていたのが、過日、新聞の時代小説ジャンルで推薦されていた「壬生義士伝」を涙ながらに読んで、自身の評価が一変しました。

 今回は、NHKのBS時代劇「一路」に惹かれた(特に、渡辺大さん演じる蒔坂左京大夫。世間で「ウツケ」と評されている殿様が実に味がある)のと、その主演小野寺一路役を演じた若手俳優永山絢斗さんが、同じくNHK総合TVの人気番組「鶴瓶の家族に乾杯」で、中山道の「下諏訪宿」を訪ねる番組も放送されたことで更に興味を持ちました。ここで、TVドラマ化に併せてか、早くも原作(ハードカヴァーでの初版は2013年とか)が文庫化されたこともあって、上下巻の大作でしたが、原作も読んでみることにしたものです。

 兎角、先に原作を読んでいると、ややもすると放送時間からスケールダウンされたり、また自身のイメージと(配役等が)違っていたりすることも多い映像化作品(例えば「澪付くし料理帖」)は普段見ないのですが、高田郁著「銀二貫」や今回の「一路」は先に映像を見て原作に興味が出たので、むしろ映像との違いをふまえつつ、じっくりと読めました(映像作品そのものでも、NHKのBS時代劇は「銀二貫」など秀作が多い様に思います)。
実際、TVでの諏訪藩のお姫様や和田峠での災難が、原作の中では加賀前田藩のお姫様行列や木曽福島手前の難所与川越えだったりもしますし、TVでは盛り込めなかったエピソードも多々あったりもしますが、それは先ほどの指摘上止むを得ない(放送回数という時間的制約や、予算の都合・・・例えば、参勤交代の途中にある諏訪高島藩と大行列でお姫様が江戸屋敷に向かう途中の加賀百万石の前田藩)と思いますので、然程その違いを気にせずに読み進みました。ただ、深谷宿での葱のエピソード(出色です!)は是非やって欲しかった・・・。

 TVは、特に後半から原作とはかけ離れ、何だか「水戸黄門」風の安っぽい時代劇になってしまったので些かガッカリしていますが、原作はもっと破天荒なエンタメ作品に仕上げっていて、ホロリとさせる場面がある一方で、特に下巻ではお殿様の行状に唖然とするやら感心するやら。まさに、花道で飛び六方を踏むが如き八面六臂の名優振りに、「イヨッ!お殿様!?」と掛け声を飛ばしたくなります。
そして脇役もイイ。

 「壬生義士伝」では、背景に戊辰戦争を巡る史実があり、それを曲げられぬ故、その世の理不尽に儀を以って不器用に立ち向かう人々の姿に感動しましたが、「一路」は架空の藩の架空の物語故、いつも最後にこんなに巧く行く筈がない、或いは、いつもこんな風に正義が勝つとは限らない、という理不尽を現実には見聞きしているからこそ、こういう一途、“一所懸命さ”の結果としての正義が、小説の世界だったらあってもイイじゃないかと、爽快感を読者に与えてくれるのでしょうね、きっと。そして読後に、そうは言っても、もうちょっと頑張ってみようか・・・と、彼らの“一所懸命さ”から勇気を与えてもらった様な気もします。