カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>

 最近、マスコミ等で“落語ブーム”という単語を目に或いは耳にします。都会では、落語を題材としたTVドラマやアニメの影響で、若い女性を中心とした若者が若手イケメン落語家の高座に押し寄せているのだとか・・・。
(最近目にした中で、“落語ブーム”を論じて一番納得・感心したのが、会員誌に掲載されていたヘヴィメタ専門誌の編集長で長年の落語ファンでもあるという広瀬和生氏の評論でした)
 個人的には2010年にビッコミ・オリジナルで連載が開始された尾瀬あきら氏の「どうらく息子」に登場する古典落語を、断片的にではなく全部聞いてみようと市立図書館のCDコーナーにあった落語のCDを借りたのがキッカケ。その後、所謂名人と謂われた志ん生、円生、小さん。そして、志ん朝、談志と、コーナーにあったCDをそれこそ片っ端から借りて聞いてみました(未だ上方落語まで到達出来ておりません)。中には、おやっ?と思わせる落語家もいて・・・。例えば、故三遊亭小円遊。TVでは“キザ”で売っていたと記憶していますが、CDでは古典落語「崇徳院」でイイ味を出しています。
そう言えば、子供の頃はTVで結構落語の放送があったように思いますが、笑点でも落語の枠はありませんし・・・。
 ところが、最近BS等で深夜に寄席(「イレブン寄席」や「ミッドナイト寄席」)の放送や、NHK総合で「超入門!落語THE MOVIE」など、落語の放送が結構されています。特にNHKの「落語THE MOVIE」は、噺家の古典落語の高座そのものの喋りを実際に役者が“口パク”(Lip Synch)で演ずるという、ある意味“画期的”な落語番組!です。アテブリというのだそうですが、結構時代劇風にリアルな感じで実に分かり易い。吉原などの郭そのものがありませんが、古典落語で例えば「へっつい」や「しんばり棒」と云われても今じゃ死語でしょうから、超入門どころか落語好きにとっても結構参考になります。演目にはお馴染の「元犬」、「目黒のさんま」、「転失気」、「粗忽の釘」、「饅頭怖い」、「初天神」などなど。それに、芸人さんなど演じられる役者さんも実にイイ味を出していますし、噺家も市馬、三三、一之輔、兼好、たい平といった今が旬で活きが良くて芸達者な各師匠が演じられました。
ところが、残念なことに一旦2月8日放送分で終了とのこと。ややもすれば“落語通”からは亜流と見做されかねず、プライドを損ねるかもしれぬアテブリの役者さん確保だけも大変でしょうし、また古典落語ゆえに製作費も掛かるので大変だと推測出来ますが、古典落語を知るには画期的だっただけに、是非また再開して欲しいと思います。
いずれにしても、玄人向けではなく、素人向けに入門編としてこうした番組が創られて全国放送されるのも、謂わば“ブーム”の証左なのかもしれません。

 寄席そのものは少なくともホール落語が各地で開かれていて、今や江戸の最盛期と同じ800名の落語家を数えるがというのが「平成落語ブーム」と云われる所以とか。
その数多おられる噺家さんの中で、私メの一番の贔屓は、滑稽さの中にも凛とした品格が感じられる柳家さん喬師匠。人間国宝小さん師匠の弟子にして、当代の人気落語家喬太郎師匠が一番弟子でもあります。
そのさん喬師匠が、「今“落語ブーム”と云われているが、嘗て“落語家ブーム”と云われた時代があった。その意味で、今は“噺家ブーム”なのではないのか?」とTVで淡々と評されていたのがとても印象に残りました。
その意味するところは・・・、『確かに、昔小朝など、タレント紛いに人気のある落語家がブームになったことはあった。その頃に比べれば、(都会では)小さな落語会が数多く開かれ、若い二ツ目の落語会にも若い女性が押し掛けるなど、その意味で落語そのものへの関心は高まっているのかもしれない。しかし、それは落語界全体というよりも、本当に実力のある噺家に集約されている』・・・と、個人的に解釈しました。

 そして、その後に演じられた「時そば」。
 「いやぁ、巧いなぁ、イイ味出してるなぁ。聴けて良かったなぁ・・・。」
CDで聞いた小さん師匠の「時そば」を感じながら、一方で「どうらく息子」で、連載開始直後の1話目だったか、高座で演じられた銅楽師匠の「時そば」を思い出していました。
だんだんと蕎麦の量が減っていく丼・・・。最後の一本までたぐり、また最後の一滴まで旨そうに飲み干す様・・・。銅ら美が解説する細やかな“芸”にナルホドと感動する主人公そのままに、さん喬師匠が演じるTVの高座の前で納得している自分がいました。

 いつか、柳家さん喬師匠の独演会、もしくは権太郎師匠との二人会を是非聴きに行きたいという思いを新たにした次第です。