カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>

 現役の噺家さんの高座をTVやCDで聴く中で、是非一度生で聴きたいと思っていたのが、柳家さん喬師匠と柳家権太楼師匠のお二人。
故柳家小さん(五代目)を師匠或いは大師匠に仰ぐ柳家一門。同門で年も近い事もあり、東京では毎年8月に二人会が行われている落語協会の大看板です。
 1973年から続いていると云う「松本落語会」。地方の落語会の草分け的存在として一二を争う程の歴史があり、落語界では有名な存在とか。2年前の「二ツ目の会」に気になっていた柳亭小痴楽さんが来られたので、私メも一度聴きに行きました。そして9月例会に記念の第500回の落語会が開かれ、この10月例会は次代1000回へ向けての再スタートとして「500回突破記念」と銘打たれた第501回の落語会で、ナント「さん喬&権太楼二人会」。これは絶対外してはなりますまい。この松本に居ながらにして、お二人の高座を聴くことが出来るのですから(5年前の落語会40周年の時もお二人は来演されていまいた)。そのため、会場もいつもの瑞松寺(落語会の時は、骨の髄から笑う“髄笑寺”と表されます)では無く、松本中央公民会(Mウィング)の6階ホールでした。

 事前にネット予約をしての10月19日は、朝から生憎の雨降りです。
前回初めて知ったのですが、会社の先輩が松本落語会の世話人をされていて、さすがに元技術者らしくH/P等は全て先輩の作成。先輩曰く、お盆に上野鈴本で聴いた二人会も素晴らしかったとのこと。
公民館に出掛けると、会社の別の大先輩方も来られていてご挨拶。さすがに客層は高齢者中心ではありますが、名人お二人の来演とあって大盛況。椅子席と階段状の座席の会場もほぼ埋まって300人近くはおられたと思います。
先ずは、さん喬師匠の一番若いお弟子さんである柳家やなぎさん(2015年に二ツ目昇進とのこと)の「松竹梅」というおめでたい噺で開演。声に張りがあり明るいのがイイ。
続いて、権太楼師匠の六番弟子柳家さん光さん(同じく2013年昇進)が「悋気の独楽」(りんきのこま)。「権助魚」にも似た、お妾さん通いをする旦那さんの噺。「どうらく息子」で銅ら美も演じていましたが、珍しい噺なのか中央図書館のCDライブラリーにも音源は無く、実際に聴くのは初めてでした。さん光さんイイですね。キャンキャンとした声が女将さんやお妾さんなど女性を演じるのに合っています。とぼけた“与太郎振り”(この噺では定吉ですが)もナカナカ。
そして、前半のトリに権太楼師匠が登場。さすがは“寄席の爆笑王”。本題に入る前の枕で歌まで歌ってくれて、そして大いに笑わせてくれます。枕の最後で「そろそろ落語しましょうか、ネ」と沸かせた上で、演題は「不動坊」。音だけでは分かりませんが、笑顔も勿論なのですが師匠の仕草の可愛いこと・・・。大爆笑でした。イヤ、さすがです。クラシック音楽もですが、落語もやっぱり生に限ります!
 仲入り後は500回突破記念の「口上」。
ステージ上に設えられた舞台に、後援する市の教育長、落語会の会場を提供している瑞松寺の前ご住職(東堂)、松本落語会々長、そして権太楼師匠とさん喬師匠が並ばれます。お二人共、この日はお祝い高座故、黒い紋付の羽織袴での正装。司会はさん光さん。些か緊張気味で、冒頭の出席者の紹介でナント「柳家権太。・・・楼」。すかさず、さん喬師匠から「お前の師匠だろっ!」と突っ込みが・・・。権太楼師匠もそれを受けて「・・・、今日で破門にします」。一気に会場が和みました。それから壇上で順番に口上を述べて、最後さん喬師匠の発声で恒例の三本締め。
 一旦緞帳が下ろされ再び幕が開いて、この日のトリに柳家さん喬師匠が登場。
師匠曰く、二ツ目に成り立ての頃、第4回か5回目の「松本落語会」に小さん師匠のお伴で参加したのが松本へ来た最初だったとか。人間国宝だった故柳家小さん最後の直弟子です。そうした思い出話を枕に、「松本にも昔お殿様がおられましたが、お大名は世継ぎを作るのが大変でして・・・」と本題が始まりました。
 「あっ、これはもしかして・・・妾馬!?」
案の定、そのマサカでありました。
 「あぁ、さん喬師匠の妾馬が生で聴けるとは・・・!」
これまで、「妾馬(八五郎出世)」はCD音源では志ん生、圓生、そして志の輔で聴いています。また「まつぶん新人寄席」で二ツ目柳亭市弥さんが演じられたのが生で聴いた唯一です。
さん喬師匠のしっとりとした話芸。柔らかく穏やかで、しみじみとして品格があります。イイナぁ・・・。今一番(生で)聴きたい噺家さんでした。それが目の前で、しかも妾馬(注)を演じてくれています。随所で笑わせながらホノボノと、妹のお鶴の方に向かって何度も諭します。
 「おめでとう、でも驕るんじゃない、みんなに可愛がってもらうように頑張るんだぞ!」
イイナぁ・・・。八五郎の酔っ払い振りがナントも微笑ましい。妹への愛情溢れて諭す言葉も、何だかフウテンの寅さんを見ている様でした。さん喬師匠の妾馬では、他の噺家さんのそれと異なり、生まれたばかりの赤ちゃんも登場させます。笑わせて、やがてホロリとさせられて・・・“さん喬落語”の真骨頂。
少々時間が押していたので、多少端折った部分もあった様に感じましたが、最後に「八五郎出世の一席でした」でお開きに・・・。
 本当に良かったなぁ・・・。落語界の大看板である柳家権太楼、柳家さん喬両師匠の噺を生で、しかもこの松本で聴くことが出来たのですから。
外に出て見ると朝からの雨はまだ上がっていませんでした。そぼ降る小ぬか雨の中、何だか幸せな気分で「秋雨じゃ、濡れて帰ろう・・・」
【注記】
めかうま。大ネタの一つで、「大工調べ」同様に、通常高座に掛かる時は八五郎がお屋敷に呼ばれた場面の前半だけで終わるため、馬は登場しない。お殿様に気に入られ、八五郎が士分に取り立てられる後半に馬が登場。