カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>

 恒例となったキッセイ文化ホール(県文)での「まつぶん新人寄席」。“あしたは真打”と題して二ツ目さんが毎回二人登場します。
9月23日開催の第18回となる今回は、柳家花禄一門から柳家花ん謝と圭花のお二人が高座に上がられます。しかも柳家圭花さんは地元の大町市出身で、高校時代(予備校時代も含め4年間とのこと)は毎日松本に通っていたとか。昨年の5月に二ツ目に昇進されたばかりで、地元出身らしく、当日は200人超という盛況ぶりでした

 先ずはベテラン二ツ目の花ん謝さんがお馴染の「長短」で会場を温め、続いて圭花さんの「樟脳玉」。江戸時代に樟脳を丸めて“長太郎玉”と呼ばれたという子供のオモチャは、何でも火を着けて掌で転がしても熱くないのだとか。これを使って、天井裏から吊るして人魂に見せかけて女将さんを亡くしたばかりの同じ長屋の住人を脅し、カミさんが成仏するようにお寺に金品を納める様に仕向けてそれを横取りをしようとする噺。何となく「不動坊」にも似ていますが、初めて聞く噺でした。
前座噺で兄弟子の花ん謝さんが煽ったこともありますが、親類縁者の皆さんか、圭花さんが登場すると掛け声も掛かり、ご本人も緊張もされて、固い感じが聴く側にも伝わって来るような高座でした。

 「仲入り」の後は、圭花さんの「本膳」。これも初めて聞く噺でしたが、滑稽噺の「茶の湯」にも似て、村長の娘さんへの婚礼祝いを贈った礼にと村長から会席の場に呼ばれた村人たちが、本膳の作法礼式が分からないので同席する村内唯一の博識の先生に相談した結果、その所作、一挙手一投足を全て真似るという噺。この高座では圭花さんも緊張がほぐれたのか、ズーズー弁の様な訛り方など、とても良い味を出して客席も大いに盛り上がりました。
 今回のトリは花ん謝さんの「竹の水仙」。前半のストーリーが似ているので「抜け雀」かと思いましたが、旅籠の亭主が一文無しで大酒のみの客から宿代代わりに用意するように命じられるのが筆ではなく大工道具だったので、
 「ははぁ、左甚五郎ですか・・・」
「抜け雀」を聴いたのは柳家さん喬師匠のCDでしたが、「竹の水仙」は柳家小さん師匠のCD。言わずと知れた人間国宝にして花禄師匠の祖父であり、さん喬師匠は小さん師匠の最後の直弟子。
そう云えば、「長短」も中央図書館から借りた小さん師匠のCD撰集の中にありましたが、「長短」、「本膳」、そして「竹の水仙」も大師匠である柳家小さん一門の得意ネタだそうですので、さすがは花禄一門の兄弟弟子である柳家花ん謝、圭花お二人の高座です。
トリに掛けた「竹の水仙」は爆笑ネタではなく、かといってコテコテの人情噺でもなく、恐らく演じ聴かせるのは難しいネタだろうと思うのですが、花ん謝さんは颯爽と演じれていました。二ツ目になって丸10年だそうですから、そろそろ真打昇進の声が掛かってもおかしくないのだろうと思います。
この「まつぶん新人寄席」は、いつも通りの県文「国際会議室」に高座を設えて200席のパイプ椅子を並べた会場で結構広いのですが、柳家花禄一門のお二人共マイクが要らないほど声が大きく張りがあって実に聞き易い。そう云えば「どうらく息子」で、師匠の銅楽が入門した銅ら壱に初稽古をつける際に、腹式呼吸の出来ていた銅ら壱の発声に驚き褒める件がありましたが、噺家にとっては「声が大きくて(通って)聴き易い」というのはとても大事なことなのでしょう。

 プロ野球でも、一軍の試合より二軍戦の方が面白いと感ずるのと同様、下積みに堪えてやがて花開くであろう明日のスターを(人より先に)見つけるべく、二ツ目さんだけが上がる高座を見るのも、それはそれで大変楽しい気がしますし(その意味で、個人的に今一番期待しているのは柳亭小痴楽さん!前回来られた入船亭小辰さんも良かったナぁ。お姉様が松本に嫁いでおられるそうだし・・・)、この信州の片田舎で定期的に開催していただけるのも本当に有難い気がしています。
 次回年明けの2月に開催される第19回は春風亭一門だそうです。楽しみ、楽しみ・・・。