カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>

  「こゆき」が我が家にやって来ることになった、7月中旬の当日。
埼玉から上田経由の三才山峠越えで、保護団体の方のお宅で飼われている二匹のミニチュアダックス君たちと一緒に「こゆき」が我が家にやって来ました(「遠い所を・・・」と労うと、ご主人は若い頃に良く高瀬川水系に渓流釣りに来ていて、運転は慣れた道だとのことで安心しました)。

 (悪徳)ブリーダーにとっては犬はただの金儲けの道具であって、愛情を注ぐ対象ではないのでしょう。「こゆき」は、保護団体の方のお宅でも暫くはクレート(ペットを運ぶためのケース)に入ってしまい、なかなか出て来なかったとか。ブリーダーは男性で日頃怒られていたのでしょうか、とりわけ男性を怖がって近寄らないとのこと。
 4月12日に保護されて、ちょうど3ヶ月。推定8歳の「こゆき」。
せっかく生かされた命です。そんな彼等がもう二度と可哀そうな目に会うことが無いよう、残りの人生(犬生?)安心して暮らせるよう、保護団体の責任としての家庭訪問と飼育環境チェックのため、必ず譲渡希望先を訪問してトライアルが開始されます。その2週間のトライアルでの注意事項や契約条項などの確認も済ませ、遠路来ていただいた労いを含め、我が家で少し休憩していただき、皆さん埼玉の自宅へ戻って行かれました。

保護されてからの3ヶ月間、おそらく生まれて初めて愛情を注がれた保護団体の方とそのご家族。すると、コユキ(文章中で分かり易い様に、以下カタカナ表記にします)は生まれて初めて可愛がってもらった人たちが急にどこへ行ったのかと不安で、座っていた椅子やその周辺の匂いを嗅いだり、部屋の中を探したり・・・。我々(特に男性である私メ)が行くと、慌ててクレートの中に一目散に避難して怖がって出て来ません。ナナは、然程コユキには興味関心が無い様子で、我関せず・・・。
私たちが部屋から居なくなると、また保護団体の方々を探して、座っていた椅子の周りをうろうろしているのが何ともいじらしくて不憫です。
彼女にしてみれば、四六時中怒られて怯えていたブリーダーから漸く逃れ、生まれて初めて可愛がってもらったご家族なのですから、それも当然です。
ややもするとクレートに籠ってしまうコユキに、四六時中家内が優しい言葉をかけ続けました。しかし、ホンの注意のつもりで「ダメ!」と叱ると、ナナなら止めて平然としているのに、コユキは常に叱られていたことを思い出すのか、怯えてクレートの中に逃げ込んでしまいます。時間をかけて少しずつ安心させていくしかありません。
食事のドッグフードはそれまで食べていたドッグフードを持って来ていただいたのですが、人が居ると警戒して食べてくれないので、クレートの口近くにおいて邪魔をしない様にすると、漸く食べてくれました。
本人(犬)にしても、生まれて初めての大旅行で、埼玉から信州まで来て疲れたのでしょう。夜もクレートの中で静かに寝ていました。
 生まれてこのかた、ブリーダーの窮屈なケージから一歩も出されたこともこれまで無かったためか、座ることが苦手なのか、常にベチャっとうつ伏せに後ろ足も投げ出したような寝方になってしまいます。
保護団体の方のお宅で初めて外界を知って、散歩が大好きになったというコユキ。朝、ナナと一緒に散歩に行くべく、家内が頂いたリードを着けてあげると、そのリードで散歩に行くことが分かるのでしょう、嬉しそうに興奮気味。
すると、ホンの数十メートルも歩かない内に、ただでさえ声帯を切られているので「ゼーゼー、ハーハー」という荒い呼吸が、過呼吸気味になってひきつってしまうかと思うような状態に。周りに人が居れば、一体何事が起ったのかと思うほど苦そうな様子です。慌てて抱き上げても暫くはその状態が治まりません。
でも本人(犬)は散歩(戸外に出ること?)が好きで、朝リードを持って行くと、嬉しそうにはしゃいで余計興奮してしまうのです。
 コユキが我が家にやって来て、雨で朝の散歩が出来なかった日の夕刻。アルプス公園なら車の通りも無いからと、車に乗せて家内がコユキを連れて行きました。
暫くすると戻って来て、コユキの過呼吸がいつもにも増してひどく、息が出来ないとのこと。そのため慌てて動物病院へ連れて行き、その日はICUの酸素室に緊急入院することになりました。
翌日迎えに行ったのですが、やはり散歩に行くと過呼吸が始まり、再度入院して酸素室へ。入院中、心電図や超音波診断をしてもらったのですが、肺や心臓に特に問題は無く、熱中症か、過呼吸が声帯を切られた影響かどうか(その結果で手術が必要かどうか)は、麻酔をして切られた声帯の様子を診てみないと分からないとのこと。
しかし、まだ正式譲渡前のトライアル中で、我々だけでは判断が出来ないため、散歩中に過呼吸状態になった時の様子を携帯の動画で撮影して保護団体の方に送って状況を説明させていただいたところ、保護団体と提携している協力支援病院が埼玉県狭山市にあるので、医療的に今後どうするかを含め、保護団体としてトライアルの継続可否を判断するためにそこで受診してもらえないかとのこと。そこで、診察日時を確認していただき、車で狭山まで行くことにしました。
事前に、我が家のワンコたちの掛かり付けである松本の動物病院での超音波等の検査データのコピーをいただき、先方の病院にも状況を院長先生から電話で説明していただくことになりました。
先方の病院名を伝えると、ナント院長先生同士が大学の獣医学部の同級生とのこと。まさかの偶然に、家内は、
 「きっとコユキはウチに来る運命。例えどんな診察結果であっても、最後までウチでコユキを世話してあげたい!!」

 当日朝早く、コユキをクレートに入れて埼玉の狭山市へ向かいました。
中央道の八王子JTから圏央道に入り、松本から狭山までは210㎞、3時間の道程。いつもの中央道から、初めて圏央道に入ります。
約束の9時半に狭山の動物病院へ到着し、保護団体の方と落ち合って受付に行くと、院長先生は本日休診とのこと。保護団体の方もそれは知らなかったらしく、
 「えっ、どうしましょう・・・?」
コユキの順番になり、若い獣医さんが診察を始めて暫くすると、院長先生がポロシャツ姿の普段着で診察室に現れました。大学時代の松本の同級生からわざわざ電話をもらったので、ナント休診日にも関わらず診に来てくださったとのこと。
他の来院の方からの、「えっ、今日は先生お休みだったんじゃないんですか??」の声に、「いや、今日は休みだから・・・」と都度弁明されながら、有難いことにコユキだけは若い先生に指示をしながら最後まで診察に付き添ってくださいました。
結果、松本での検査結果同様、肺や心臓等には異常は見られないとのこと。考えられるのは、声帯切断の結果、気道に何らかの障害が起きている可能性があるが、それは麻酔して実際開いてみないと分からないとのことでした。

 そこで、院長先生からのアドバイスを踏まえて、保護団体の代表の方とも電話で相談していただいた結果、この日は入院させ、明日気道を開いて手術をすること。手術は簡単に終わる可能性もあるが、もし悪化していて手術が無理な場合は、開いただけで切除せずにそのまま閉じるケースもあり得ること。簡単な手術で済む場合は、手術の翌日にも退院出来ること。そして、入院・手術費用は正式譲渡前でもあり、本来その譲渡前に事前の健康診断をした上でのトライアルという前提でもあるので、コユキの場合通常の健康診断だけでは把握出来なかった可能性もあり、その責任として保護団体で全額負担してくださる・・・ということになりました。善意に支えられているのが保護団体でもあり、営利団体ではなく飽くまでボランティアです。従って、もしコユキが治るものであれば、勿論我々も負担するつもりではいたのですが、本当に感謝しかありませんでした。
 「いえいえ、長野から二度も往復してもらうのですから・・・」

 診察中、待合室で待っている間も、犬や猫を連れた方々が次々に来られます。こちらは最新の医療機器や入院設備も備えていて、結構首都圏でも有名で大きなペット病院らしく、東京や埼玉といった地元だけではなく千葉や神奈川からも来院するのだとか。
我々が長野から来たというこちらの事情を知ると、今まで全く愛情を注がれることも無かったコユキの身上に皆さん同情されて、中には涙を流してくださる方もおられ、
 「捨てられた上に、この上更に病気だなんて・・・。いくらなんでも、そんな理不尽なことあり得ません。大丈夫、ここならきっと良くなりますから!コユキちゃんだって幸せになる権利があるから!!」
と励ましてくださいました。

 手術の結果は、保護団体の方が明日確認し当方に連絡くださることで、入院手続きを済ませてコユキを預け、後ろ髪を引かれる思いで病院を後にして、我々は松本まで戻りました。
帰りの210㎞。往路よりも何故か長く感じます。お互い何となく無口になり、ナナも待っていることもあって、帰路は途中休憩無しのノンストップで一路松本へ。
 「・・・きっと、大丈夫だよね!明後日は迎えに行けるよね!?」