カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>

 尾瀬あきら作「どうらく息子」をきっかけに10年ほど前から落語に嵌り、中央図書館のCDライブラリーの落語のCDに始まって、地方落語会でも草分け的存在という月例での「松本落語会」、更には若手二ツ目噺家に依る県文の「まつぶん寄席」の生落語などなど、探してみると松本の様な地方でも意外とそうした生の落語に触れる機会は意外とあったのですが、そこはやっぱり一度は所謂「寄席」で生の落語を聞いてみたい!寄席の雰囲気を肌で感じてみたい!・・・この10年間ずっとそう思っていました。そしてそれは、家内は落語には何の興味も関心も無いので、自分一人の時でないと絶対に無理。
そこで、今回長女の招待でサントリーホールでのシュターツカペレ・ベルリンのコンサートを聴くために、一人で上京した12月8日。コンサートは夕刻開演ですし、それまで娘は仕事なので、この一人の時間を生まれて初めての寄席に使うことにしました。
実は、東博での所蔵全ての国宝を展示するという創立150周年記念の特別展と上京することが決まった時に随分迷った(東博は日時特定での事前予約が必要)のですが、今回展示されるという国宝90点の内、常設の考古作品は勿論、等伯の「松林図屏風」など、多分半分位はこれまで何回かの東博の展示で観ている筈ですし、その内20点という最近は若い女性にも人気だという日本刀には然程興味が無いので、最終的に初寄席を選択するころにしました。

 東京で常時落語が聞ける定席の寄席は、現存する最古の寄席で安政4年創業と云われる上野の鈴本演芸場を始め、浅草演芸ホール、池袋演芸場、新宿末広亭の四つと、更にこれに加えて伝統的な大衆芸能の保存と復興のために昭和54年に開設された国立演芸場があります。
鈴本の飲食のみならずアルコールもOKというのには些か惹かれましたが、12月上席(1~10日)の出演者を見て、また松本から上京する際の終着駅である新宿というアクセスの良さも加え、初寄席は「新宿末広亭」に行くことにしました。

 新宿三丁目の伊勢丹の裏(?)の、靖国通りへ抜ける末広通り。居酒屋や飲食店などが軒を連ねる通りに在る、昭和レトロな木造の建物が「新宿末広亭」です。上野鈴本、浅草、池袋と並ぶ東京の定席4つの中で、昭和21年に建てられた唯一の木造建築です。
先述の通り松本からだと終着駅が新宿なので、他よりも末広亭の方が行き易いこともありますが、何より12月上席(1~10日)の昼の部に、私が一番好きな噺家の柳家さん喬師匠を始め、落語協会初の女性真打の三遊亭歌る多、また実力派の桃月庵白酒、更には今年昇進した話題の女性真打である春風亭ぴっかり改め蝶花楼桃花といった真打の師匠たちが登場。今回の上席昼の部のトリは橘家圓太郎師匠とのこと。この顔ぶれが理由となりました。
 長女のマンションに先に家内から頼まれた荷物を届け、急いで新宿に戻り、末広通りの飲食店で軽く昼食を食べてから新宿末広亭へ。
入口で、有難いことにシニア割引の木戸銭2700円を払って(通常は3000円)入場。入場の際はマスク着用で、検温と消毒が必要です。
ホールは椅子席ですが、末広亭は左右の両脇に畳敷きの桟敷が設けられていて、昔の演芸場といった雰囲気を残しています。せっかくですので、高座に向かって右側、上手の桟敷席の二番目で聴くことにしました。
入口で戴いたパンフレットには寄席文字で『落語色物定席 新宿末廣亭』とありますが、これは落語と落語以外の「色物」と呼ばれる芸能を掛ける常設の寄席という意味。そしてこの「色物」というのは、寄席入口に掲示されていた「12月上席昼の部出演者」の看板にもある様に、落語の噺家(講談師も)の名前の上には黒字で「落語」と書かれているのに対し、漫才や大神楽、マジック、紙切りなどは赤色で書かれていることに由来しています。決して“色っぽい”出し物という意味ではありません。
係りの方に聞かれ、せっかくなので寄席の雰囲気を楽しむべく選択した末広亭にしか無い桟敷席。教えて頂いて座布団を受け取り、脱いだ靴を持って畳敷きの桟敷席へ。寄席の高座は(ホールのステージに比べると)思ったよりも狭いのですが、座った上手の前から二番目の桟敷席は高座から4~5m位しか離れておらず、それこそ目の前で演じている感じ。松本でも有名噺家の独演会ともなれば、2000人収容の大きなホールが会場(場合によって一階席のみを使用)になりますが、そうした大きなホールとは臨場感が全く違います。また落語会とも寄席の雰囲気はやはり異なります。何となく、箱物全体に寄席としての一体感がある様な気がします。平日の昼ということもあってか、入りは半分くらいでしょうか、また私メも含め年配のお客さんが殆どで、女性一人で聞きに来られているお客さんもおられます。また高齢のご夫婦が、お互いを労わりつつ二人して聞きに来られているのは、微笑ましくも何とも羨ましい・・・。
 12月上席昼の部は12:00~16:15まで。入場したのが午後1時頃でしたので、前座の開口一番に始まり既に4組が終わっていて、ちょうど三遊亭歌る多師匠の出番から。
以下、その後の演者と演目です(初めて聞くネタもあり、自分で調べた結果ですので、もし間違っていたらスイマセン)。

  三遊亭歌る多    「宗論」
  夢月亭清麻呂    *創作落語(定年後整形手術を希望する夫の噺)
  三増紋之助     *曲ゴマ
  柳家さん喬      「短命」
  鈴々舎馬風     「楽屋外伝」(*今は亡き師匠方の思い出話など)
   (お中入り)
  蝶花楼桃花     「ん廻し」
  笑組         *漫才
  桃月庵白酒     「茗荷宿」
  柳家小団治     「大安売り」(勝ったり負けたり)
  柳家小菊      *都々逸他(演目にある大神楽の代演)
  橘家圓太郎(主任)「試し酒」 

 協会初の女性真打という三遊亭歌る多師匠。今は亡き三遊亭圓歌師匠に弟子入りし、「噺家になりたいなら(芸に打ち込むためには)、愛人になっても構わないが結婚はするな」という師匠の言いつけを守って、今も独身を通しているという歌る多師匠。この「宗論」は師匠の持ちネタのようですが、そこは女性真打の先駆者らしく、元ネタの若旦那をお嬢様に変えて艶っぽく演じられていました。またこの3月に真打に昇進したばかりの春風亭ぴっかり改め蝶花楼桃花師匠。嘗てAKBオーディションの最終審査まで残ったというだけあって、また故円楽師匠休演中に大喜利に出演し話題をさらっただけあって、如何にも華やいだ雰囲気。イイじゃないですか、持って生まれたのですから、大いにウリにすればイイ。
今年の「NHK新人落語大賞」に選ばれたのは初めて女性落語家で、上方の桂二葉さんでしたが、これが見事な本格派。女性落語家は、第一号の歌る多師匠以下、東京だけでも20人を超えるそうですが、これからは性別など関係なく大いに活躍していくことでしょう。
そして、私の一番好きな噺家である柳家さん喬師匠。師匠の生落語は「松本落語」でも聞いていて、あの時は感激の「妾馬」でした。今回はトリではありませんので、各自15分の高座の中で「短命」を演じられましたが、いつものホンワカほのぼのした感じが実にイイ。好きだなぁ・・・、出来ればまた本寸法で聞いてみたいなぁ・・・。「妾馬」や「文七元結」といった人情噺も、「棒鱈」の様な滑稽話もどちらもイイ。権太楼師匠との二人会にいつかは来てみたいものです。
寄席ではトリ以外の出番は持ち時間が15分しかありませんので、好きな師匠の噺を本寸法でじっくりと聞きたい時のために、ナルホド!独演会や二人会があるのだと、今回寄席を聞いてみて初めて理解出来ました。
しかし一方で、今回座ったのが上手の桟敷席の前から二番目でしたので、高座まではホンの4~5m。目の前でさん喬師匠が演じられている感じに何だか夢を見ている様で、「あぁ、これがホンモノの寄席なんだ・・・」と、寄席の良さに溜息しきりでした。
重鎮の馬風師匠、一年前のコロナ入院の後遺症で足腰が弱ってしまってということで、座布団ではなく椅子に座っての高座でしたが、居るだけで絵になります。
中入り後に実力派の桃月庵白酒師匠の「茗荷宿」。そして代演のようでしたが、柳家小菊師匠の三味線。図書館にも「江戸のラブソング」と称した小菊師匠の演ずるCDがありましたが、まさに粋と艶。寄席でないと聞くことの出来ない貴重な演目でした。
12月上席昼の部の主任は橘家圓太郎師匠で、本寸法の「試し酒」を演じられました。小朝師匠のお弟子さんですので、先ほどの蝶花楼桃花師匠の兄弟子になります。「試し酒」での久蔵の五升の酒の飲みっぷりはさすがでした。
 寄席は、いつでも入りたい時に入って、出たい時に出て良いという出入り自由。しかも平日は昼夜入れ替え無し。従って、途中での外出はダメですが、そのままでしたら、12時から夜の8時半までずっと聞いていられます。その意味では、3000円の娯楽としてはお得な庶民のエンターテイメントと言えるでしょう。
私も、休憩をはさみ、サントリーホールへ行くギリギリまで夜の部も聞いて、5時を過ぎてから末広亭を後にしました。
外に出てみると、師走に入って“つるべ落とし”の夕暮れ故、提灯に明かりの灯った末広亭の正面は何とも粋な佇まい。私にとっての初寄席「新宿末廣亭」で、雰囲気も演目も、多いに楽しむことが出来ました。
【注記】
寄席の館内は撮影禁止につき、掲載した内部写真(高座と桟敷席)は「新宿末広亭」紹介記事からお借りしました。

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