カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>

  “清流の城下町”と聞いて、思い浮かべるのは何処でしょうか。
真っ先に思い浮かぶのは、 “郡上踊り”で有名な郡上八幡でしょうか。
正に郡上八幡のキャッチフレーズが“清流と名水の街”で、町割りに沿って家々の軒先を流れる水路は、元々は防火対策のために時の城主が城下纏整備として4年の歳月をかけて築造され、今でも水路が街中に張り巡らされていて、また市内を流れる“清流”吉田川では、地元の子供たちが“度胸試し”に高い橋の欄干から川に飛び込むのが夏の風物詩とか。まだ行ったことが無いのですが、是非一度は訪れてみたい奥美濃の城下町です。

そして郡上八幡と同じ岐阜県では、県立斐太高校が学校前の大八賀川で行う大正時代から続く“白線流し”でも知られる飛騨高山よりも、瀬戸川が水路の様に街中を流れる飛騨古川の方が個人的にはむしろ“水の街”という感じがしました。
また、“清流”ではないかもしれませんが、八幡堀沿いの風情ある街並みを眺めながら船で巡る、琵琶湖の水運を活かして近江商人で栄えた近江八幡。豊臣秀次がその基礎を築いた、こちらも“水”が感じられる城下町でした。
 明治維新後の廃藩置県で、その飛騨地方と松本は当初は同じ筑摩県でした。お互い“日本の屋根”の峰々から流れ出る河川や恵みの湧水を活かしているのは、北アルプスを挟んで背中合わせの松本平と飛騨地方は良く似ているのかもしれません(そんな縁もあって、高山市と松本市は姉妹都市です)。
複合扇状地である松本盆地は、東の筑摩山系から流れ出る女鳥羽川と薄川、そして西の北アルプスからの梓川と高瀬川、南側は木曽川との分水嶺である鳥居峠から北上する奈良井川や鉢盛山に源を発し奈良井川に合流する鎖川などから形成されています。そして、その松本盆地の東の隅に位置する松本の市街地には、街中に女鳥羽川が流れ、薄川や田川、他にも牛伏川、大門沢川など大小幾つもの河川が市街地を流れて複合扇状地を形成しました。
そうした川の伏流水が松本市内で湧水として湧き出し、“まつもと城下町湧水群”として「平成の名水百選」にも選定されていますので、松本も十分に“名水の城下町”だと名乗ることが出来ましょう。
 では、一方“清流”についてはどうでしょうか。
上高地から流れ出る梓川は特急名にも使われるなど、信州を代表する“清流”としてのイメージがしっかりと定着していますが、松本の街中を流れている訳ではありません。
三才山峠に源を発し、市街地を流れて田川と合流して奈良井川に注ぐ女鳥羽川は、全長17㎞という短い川ですが、昔はお城の総堀の外側を直角的にL字型に流れていることから、外堀の更に外側で自然のお堀としての役目も果たしていました(小笠原氏の支城だった深志城を大改修して、松本の城下町の基礎を築いたのは信濃を征服した武田信玄ですが、信玄堤で知られる様に信玄が“治水の名手”だったことから、女鳥羽川を堀として使うために直角に流れを変えたという説がありますが、近年の研究ではそれは史実ではなく、自然の流れをそのまま築城時に活かしたのではないかとのこと)。
街中を流れるために、昭和30年代までは台風などでしばしば洪水が発生したようですが、河川改修などに依り現在ではそうしたこともなく、また下水道整備の結果や湧水が流れ込むこともあって、街中を流れる川としては女鳥羽川は想像以上にキレイです。また、昔の様にカジカガエルの住める綺麗な川を取り戻そうと、市民による保全・清掃活動も盛んに行われてきた結果、2019年には念願のカジカガエルの生息が確認され、また中流域の水汲のスポーツ橋付近ではホタルが乱舞していますし、下流の縄手通り付近では放流された鯉が泳いでいるのを見ることが出来ます。そして街中を流れる川には珍しく、ヤマメの棲む上流域だけではなく、下流域の街中でもウグイが棲息しているそうです。
なおホタルは女鳥羽川だけではなく、旧開智学校に隣接する、街中と言っても良い中央図書館脇を流れる大門沢川でも見ることが出来ます。
またマンションの近くの渚地区を流れる全長5㎞という小河川の穴田川。元々は湧水が流れ込むキレイな川だったのが、1960年代になって工場排水や家庭からの雑排水が流れ込み“松本で一番汚い川”と云われたそうですが、下水道整備や流域の企業が参加する「穴田川をきれいにする会」が定期的に清掃活動をするなどして、今では本当にキレイな川になり田川に流れ込んでいます。
 更に松本市街地には、これぞ正真正銘“清流”だと言える川があります。それが「榛の木川」と「蛇川」です。
両方とも川幅が1mにも満たない、用水路の様な小さな川なのですが、“まつもと城下町湧水群”である源池の水源地やその辺りの湧水そのものを水源としていて、途中民家の中に在る湧水も含め、更に幾つもの湧水が流れ込んでいることもあって驚く程キレイな清流なのです。しかも昔誰かが放流したモノだそうですが、所々に外来魚であるニジマスが棲息していて、街中でもその姿を見ることが出来ます。(上二枚の写真は源池の水源地。次は上が榛の木川で下が蛇川です)
“当国一の名水”「源智の井戸」から毎分200リットルの湧水が流れ込む榛の木川は人形町(高砂通)を西に流れていて、所々の道路脇でその清流を見ることが出来ますが、蛇川は殆ど民家の脇を流れており、特に高砂通から北側では暗渠でフタをされてしまっているため、殆ど流れを見ることが出来ません。でも高砂通の北側でも一部、“蔵の街”中町の南側の飯田町に藤森病院の井戸「亀の泉」があり、この辺りを流れる蛇川はしっかりとその流れを見ることが出来ます。特に病院施設のフェンスで囲まれているため安全と分かるのか、水草の中を何匹もの大きなニジマスが悠々と泳いでいるのを見ることが出来ます。

 難しいとは思いますが、何とかその暗渠を撤去して江戸の昔の様な小路に沿って流れる清流が見られる様にして、「源智の井戸」を始めとする「まつもと城下町湧水群」の名水と、その湧水が流れる榛の木川、蛇川の清流を合わせて“まつもと水巡り”として、郡上八幡の様に清流と名水に沿って街歩きが出来る様にすればまた一つ、それぞれ北アルプスを挟んで、飛騨地方の郡上八幡にも負けない“清流と名水のアルプスの城下町”として、信州松本の“街歩き”での観光的魅力が一層高まると思うのですが・・・。