カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>

 以前もご紹介(第831話)したように、小学館の「ビッグコミック・オリジナル」連載の中で、今一番ハマっているのが、前座からの落語家修行を描く尾瀬あきら作「どうらく息子」です。落語家柳家三三(さんざ)師匠の監修も手伝い、落語界や古典落語など、噺家の世界が実に丁寧に描かれています。
捨てられずにいたら、さすがに邪魔になってきたので、保管のスペース効率を考えて、単行本のビッグコミックス(とりあえず最新刊までの)全9巻を一括購入してしまいました。35年間愛読してきたビッコミ・オリジナルですが、考えて見たら、全巻購入したのはこれが初めてです。
それだけ、この作品が(例え私のような落語素人であっても)何度でも味わって読める魅力に溢れていることの証左でありましょう。
 そして全9巻、一気に、しかも繰り返して三度読破しました。
全て一度はオリジナル誌上で読んでいる筈なのに、今回じっくりと読み返して、改めて「イイなぁ・・・!」と何度も何度も溜息をつきました。
傍の奥様曰く、
 「5千円で、そんなに何日も幸せに浸れるなんて、安上がりでイイわね!」
と感心して(呆れて?)おられました(我ながら、同感でござりますル)。      

 では、その「イイなぁ」のホンの幾つかを・・・。例えば、
誕生日祝いに買った「銅楽独演会」のチケットを失くして困っている老夫婦に、自分の大切な一枚を譲る翔太。そのチケットを偶然拾って彼に届けた師匠のおかみさんの、「客席にいる、ちょっと若い長兵衛さんに聞かせてあげたいから」というリクエストに応えて演じる、銅楽円熟の「文七元結」。
T大学合格を寄席に報告に来た弟を高座から祝う、二ツ目に昇進したきさらぎ改め夏の輔の、しきたり破りの大根多(ネタ)「妾馬」。最初は小言を言った真打らも、銅ら壱の必死の訴えで訳を知り、何も言わずに、そのお祝いに次々と目出度い一席を高座で演じます。
若い頃はCDを出す程の芸達者でありながら、飲んだくれて素行が乱れ、寄席から追放されている真打ち夢六。ひょんなことから銅ら壱と関わり、悩む銅ら壱に徹夜で「牛ほめ」の稽古をつけ、高座で演じた銅ら壱の間の取り方から夢六と見抜き、また彼を高座に上げようとする銅楽。その夢六の才能を信じ、じっと見守る「よし乃」の女将。
嘗て、先妻を失くして憔悴し切った銅楽を高座に復帰させるために、敢えて挑発した夢六同様に、今回その時と同じセリフで、自棄になりかけた夢六に覚悟を決めさせる銅楽。そして大根多ではなく、初心に帰っての前座噺「道灌」で復活を遂げる夢六。
8年前に、芸も荒れた夢六を出入り禁止にした名人慎蔵師匠から、夢六が若い頃唯一慎蔵に稽古を付けてもらいながらOKの出なかった大根多「鰍沢」を演じる条件での「慎蔵独演会」への指名を受け、見事に演じ切った夢六に、「10年掛かってやっと上がった(出来上がった)な」と袖で労う慎蔵。
銅楽の計らいで、10日間の寄席に8年振りに復帰した夢六。初日の楽屋で、新人前座のしくじり(めくり間違い)で客席から笑われたことをなじり続ける後輩噺家に、同情しつつも「客席が湧いたなら、それをそのまま掴んで笑いを広げるのが芸!」と一喝し、見本とばかりに高座でそれを枕に見事笑いを取る夢六。
そしてオリジナル誌上でも何度も何度も読み返した、夢六演じる奇跡の「芝浜」。病院から駆けつけた銅ら壱から(昏睡していた「よし乃」の女将の)「意識が戻った」と報らされて、独り病院へ向かう夢六。その、少し丸めた男の背中の描写が、黙しながらも喜びに震えているようで、実にイイ。「芝浜」に夢六の現実をダブらせてその心情を描いた、尾瀬あきら(+柳家三三コンビ)の傑作だぁー!
えも言われぬ味を醸す慎蔵師匠の、まるで人情噺の下げのような「そん時は銅楽さん、クエになりなよ」の“クエの段”は、次巻でしょうか?楽しみだなぁ・・・(振り返ると、何だか夢六師匠や慎蔵師匠ばかりが印象に残っていますが・・・)。

 ・・・と、どのエピソードもしみじみと、ほのぼのと、
「うーん、落語の世界は深いなぁ・・・。」
そう言えば、「どうらく息子」に感化されて、数年前に松本で初めて聴きに行った、三遊亭歌丸&円楽両師匠の生落語。
クラシックのコンサートのように、どうして事前にプログラムに演目やその解説が乗っていないのか不思議に思いました。
「古くからの慣習とはいえ、何と不親切な!」。
今回改めてコミックを読んで分かったこと。
高座に上がるまで分からないのですね。立前座が記録する、その日の根多(ネタ)帳を見て、演目がダブらぬようにその場で差し替えたり、或いはその日の客層に沿ってネタを決めたりすることもあるのですね。
「イヤハヤ、知らないということは、げに恐ろしい・・・」
と、恥じ入った次第。

 さて、いよいよ本誌オリジナルは、次号(明後日、19日発売でーす!)で遂に第100話。話の方も区切り良く、銅ら壱改め「惜春亭銅ら治」の二ツ目昇進披露の初高座が巻頭カラーで開演。そして、月末にはお待ちかねの第10巻が発売予定とか(ムフフ・・・)。
【追記】
そして8月5日号(No.1199)の巻頭。「どうらく息子」での、銅ら壱改め惜春亭銅ら治演ずる二ツ目襲名披露「締め込み」。