カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>

 昔から我が家で使っていた竹細工の「み」。
家にはプラスチック製や金属製のモノもあるのですが、しなやかさといい、丈夫さといい、昔ながらの竹製には敵いません。

 我が家では、薪ストーブ用の楢材の薪を二束ずつ運ぶのに、専らこの竹製の「み」を重宝していたのですが、父の代からですので恐らく何十年と使ってきたのでしょう。さすがに竹が折れたりして壊れてきたので、新しいのを買おうと思ったのですが、これがなかなか見つかりません。
昔ながらの色々な竹細工の製品が、今やプラスチック製品に取って代わられているのでしょう。

 次女が住んでいる成田山に続く表参道に竹細工屋さんがあったのですが、そのために成田へ行くというのも無理な話。そうかと言って、若い女性に買って来て!と頼んでも絶対にイヤ!と言われるのがオチ。

 古来信州は、原料となる篠竹(シノダケ或いはスズタケ=みすず)などの笹が生茂った場所だったことから、万葉の時代、信濃の国に掛かる枕詞が「みすずかる(刈る)」となったというように、農閑期の副業などで竹細工の盛んな土地だったようです。
会社の先輩の方によると、ご実家のある黒姫ではネマガリダケ(千島笹)を竹細工に使うために、タケノコを乱獲しないように今でも地区でその時期は“止め山(留山)”にして保護しているのだとか。

 しかし、最近ではその信州でも街中で竹細工を並べたお店を見かけることなど殆ど無いと言っても過言ではありません。

 諦めかけたところで、「そう言えば・・・」とひょんなことから残像のように浮かんで来たのは、最近はトンとご無沙汰ですが、昔カードで支払いの出来るスーパーマーケットがジャスコ(イオン)しか無かった頃のことですので、少なくとも10年くらい前だったでしょうか。
毎週末のように食料品の買出しに行っての帰り道。幹線道路の渋滞を避けてショートカットで利用していた一方通行ばかりの狭い路地に、竹細工の篭やざるが軒先にたくさん置かれた一軒の家。
あれって、もしかしたら竹細工の店だったのでは・・・?
そこで、先月季節外れの雨で午後農作業が出来なくなった日に、行ってみることにしました。
「まだあるかなぁ、もう廃業しちゃったかなぁ?・・・。」

 その店は(イオンの入っているカタクラモールからだと)、女鳥羽川の南岸の一方通行を走り、川を渡って裏町に続く通りを田楽で有名な木曽屋の所で左折して、木曽屋の前から東町通りへと東西に結ぶ狭い一方通行沿いの左側。
田楽の木曽屋なら観光用ガイドブックにも載っている筈なので、地元の方でなくてもそちらを目指して行けば分るでしょう。因みに駐車場はありませんが、近くの東町通りにコインパーキングがあります。

 ありました!
記憶通りの場所に『柏善 上原善平商店』という古びた木の看板と、せいぜい5坪ほどでしょうか、ガラス戸越しに見る狭い店の中には、天井から吊るしたり積み重ねられたりと、小さな篭やざるから昔懐かしい大きな行李(こうり)や「ぼて」まで、大小取り混ぜて所狭しと置かれた竹細工の数々。
中に入り何度か呼ぶと奥から女将さんが出て来られて、竹の「み」を探していると言うと、置いてある場所を教えてくれました。
一つは信州産という細い竹で細かく編んだ「み」。昔、我が家でも収穫した蕎麦の実などを入れたりしていたのを思い出します。そして、もう一つが佐渡島で作られたという幅広い竹で編んだ「み」。
「あっ、これです。これ!」
「はい、それならとても丈夫で、土木作業でも使いますよ。」

 早速購入です。お代は2500円とのこと。
「最近は、需要も減って、作る職人さんもいなくなっちゃってね。」
そうなんでしょうね。でも、この竹の持つ弾力性と強さは、安いプラスチックでは求められません。

 しかし、こういう店が未だ松本にもあったんですね。
感動して、お断りした上で店内の様子を写真に撮らせていただきました。
眺めていると、古めかしいどころかむしろモダンな感じさえします。細い竹で編んだものが多いので、正に“みすずかる”信州産なのかもしれません。街興しで、お蕎麦屋さんなどだけではなく、イタリアンなどの洋風レストランなどで使っても粋で面白いかもしれません。
 さて、購入した新しい竹の「み」。とても丈夫なので、きっとこれもこの先何十年も持つかもしれません。
「今度買い換える時に、果たしてこの店は残っているのだろうか・・・?」。
そんな感慨を抱きながらお店を後にしました。
時代をタイムスリップしたかのような、今や貴重な竹細工の専門店『上原善平商店』でした。