カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>

 今回の東京滞在で先ず行ったのは、クラシックの生のコンサートでも生落語の寄席でもなく、美術展でした。

 向かった先は皇居の近く、竹橋に在る「東京国立近代美術館」。こちらでは、開館70年の記念展として、「重要文化財の秘密~問題作が傑作となるまで~」と題した特別展が3月の17日から5月14日まで開催されていて、もしその間に上京する機会があれば是非見たいと思っていました。
やはり同じ様に思う方が多いのでしょう。この日は平日だったのですがかなりの人気で、一定時間毎に入場人数の制限をして鑑賞が行われていました(コロナ禍の影響もあるのか、以前の東博に比べると制限人数がかなり少なめの様に感じます)。
事前にオンライン予約をしてあると直ぐに入場待ちの列に並べるのですが、予約していない場合は、先ずはその窓口で観覧料を払ってチケットと整理券を貰う必要があります。事前予約していない人の方が多いためにその整理券を貰うのに長蛇の列で結構時間が掛かっていたので、家内がその場でスマホからWEB予約をして、列から抜け出して入場待ちの列の方に並ぶことが出来ました。そうすると入場時に係の方がスマホから読み取ってくれ、チケットを係の方から受け取って入館出来ました。
この日が平日だから大丈夫だろうと思っていたのですが、こうした人気の美術展は、例え平日であっても事前にオンライン予約をしてから行った方が絶対良いと感じた次第です。
 さて、今回の創立70周年の特別展「重要文化財の秘密」は、美術館のH/Pに拠ると、
『東京国立近代美術館は1952年12月に開館し、2022年度は開館70周年にあたります。これを記念して、明治以降の絵画・彫刻・工芸のうち、重要文化財に指定された作品のみによる豪華な展覧会を開催します。
とはいえ、ただの名品展ではありません。今でこそ「傑作」の呼び声高い作品も、発表された当初は、それまでにない新しい表現を打ち立てた「問題作」でもありました。そうした作品が、どのような評価の変遷を経て、重要文化財に指定されるに至ったのかという美術史の秘密にも迫ります。
重要文化財は保護の観点から貸出や公開が限られるため、本展はそれらをまとめて見ることのできる得がたい機会となります。これら第一級の作品を通して、日本の近代美術の魅力を再発見していただくことができるでしょう。』
という様に、今回の見どころは、史上初、展示作品全てが明治以降の重要文化財であることです。更に、
『明治以降の絵画・彫刻・工芸の重要文化財のみで構成される展覧会は今回が初となります。明治以降の絵画・彫刻・工芸については、2022年11月現在で68件が重要文化財に指定されていますが、まだ国宝はありません。本展ではそのうち51点を展示します。』
(期間中入れ替えがされるので、一度に全51作品を見ることは出来ません)
 明治以降の近代日本画、西洋文化を取り入れた洋画や彫刻、そして日本を海外に知らしめるべく伝統技巧を凝らした美術工芸・・・。
色々特別展としてのポイントはあるのでしょうけれど、見終わった後での先ずは個人的な感想は「目の前にあるのは、まるで美術の教科書そのもの・・・だ!」ということでしょうか。
明治維新後のフェノロサと岡倉天心に始まる、近代化の中での日本美術界の歴史そのもの・・・が目の前に展開されているのです。
1950年に制定された「文化財保護法」を受けて、1955年に明治以降の近代美術作品として、初めて重要文化財に指定された第一号の4作品の一つである狩野芳崖の「悲母観音」(東京藝大所蔵)を皮切りに(以降掲載した写真は文中に記載した順番です)、それらが教科書の写真ではなく、或いは記念切手の図案でもなく、教科書で見た通りの高橋由一の「鮭」(東京藝大所蔵)、浅井忠の「収穫」(同左)、黒田清輝「湖畔」(東博所蔵)、そして岸田劉生の「麗子微笑」(同左)などの実物が、現物として次から次へと目の前に展開していく不思議・・・。
それは、特に彫刻で例えて言うならば、高村光雲の「老猿」(東博所蔵)や朝倉文夫の「墓守」などが(萩原守衛「北條虎吉像」は所蔵している穂高の「碌山館」で若い頃見たことがありますので)、教科書や図録の平面写真ではなく、周囲360°のあらゆる方向から眺められるという何だか信じられない様な、現物だからこその感覚・・・とでもいえば良いでしょうか。
因みに、個人的に今回の展示の中で一番感動した作品は、初めて見た朝倉文夫作「墓守」(台東区朝倉彫塑館所蔵)でした。“東洋のロダン”と称された作家の最高傑作です。文化庁のD/Bに依れば、
『両手を背後に組み、わずかにうつむいて微笑する老人の立像。明治から昭和にかけて日本の彫刻界を主導してきた朝倉文夫の作品である。
モデルは、学生時代より馴染みのあった谷中天王寺の墓守であるという。朝倉によればモデル台に立たせると固くなるためブラブラ歩いて面白いと思った姿勢をとり、家のものが指す将棋を見て無心に笑っている自然な姿を横からとらえて作った』塑像とのこと。
その像からは何とも言えぬ哀愁が漂っていて、何だか魅入られたような感じでその前から暫く動けず、その後周囲を回って色々な角度からじっくりと眺めてみました。
         (「母子」上村松園:「わだつみのいろこの宮」青木繁)
 そして余談ですが、今回の美術展で個人的に一番感慨深かったこと。
それは、所蔵元の了解如何であろうことから勿論全てではありませんでしたが、展示品の実に7割(目録に拠ると、撮影不可は51作品中16作品のみで、その大半が今回の特別展用に借りて展示されている、例えば永青文庫や大原美術館などの他の美術館の所蔵作品)がフラッシュや動画以外の撮影OKだったことでした。
           (「褐色蟹貼付台付鉢」初代宮川香山)                    
海外では当たり前でも、国内だと、やれ傷むなどとして(おそらく一番の理由は、勝手にネット上などで使用されたくないという所蔵する側の著作権ではないかと思います)厳しく撮影禁止と云う展覧会が多い中で、いくら経年劣化の少ない明治以降の近代作品とはいえ、今回絵画も含め7割もの作品が撮影OKだったことに驚き、喜び、今回の国立近代美術館のまさに画期的なその“英断”に先ずは拍手を送りたくなりました。
クラシックのコンサートでも、カーテンコールでの撮影がOKだったサントリーホールのシュターツカペレ・ベルリン(第1786話)同様、コロナ禍後の集客拡大目的もあるのでしょうか。しかし、大変良いことだと思います。いずれにしても大歓迎です。今回も多くの拝観者の方々がスマホ等で撮影をされていました。会場で、中には驚いて「えっ、本当に撮影していいんですか?」と尋ねられる方もおられ、展示作品名のパネルにカメラマークが表示されている作品は撮影可能な旨教えてさしあげました。因みに、入り口にある「出品目録」には、逆に撮影不可の作品に×印のカメラマーク(注:赤丸で囲ったのは筆者です)が表示されていました。 
少なくとも、私メや私以上に海外経験豊富な長女の知る限りにおいて、美術展で展示している絵画作品の撮影を禁止している美術館は日本くらい(但し、国内でも劣化のリスクが少ない考古資料は、例えば茅野市尖石博物館の国宝土偶や東博所蔵の国宝や重文の埴輪群などは撮影OK)で、かのルーブルの“世界の至宝”「モナリザ」を始め、欧米の美術館は殆どが写真撮影OKの筈ですので、保存上問題となるフラッシュなど照明器具を使った撮影やビジネス目的での写真撮影は禁止するのは当然としても、個人が記念や記録として用いたい私的な写真撮影については、今回撮影を認めていた(但し今回もフラッシュ使用や動画撮影は不可)国立近代美術館の様に、こうした取り組みが国立のみならず日本国内の公立や私立の美術館にも拡がっていけば良いと思います。