カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>

 松本市美術館で開催されている特別展「ヨーロッパの宮殿を飾った日本磁器-IMARI伊万里」に、奥さまのご要望で4月末に行ってきました。
今回も、3年前のマイセン同様に、サントリー美術館から松本(6月8日まで)を経て、大阪市立東洋陶磁美術館への巡回展。「伊万里焼」として、東洋陶磁美術館の所蔵品を中心に、本邦初公開を含むヨーロッパの王侯貴族に愛された輸出伊万里190点の謂わば里帰り展です。
前回の学芸員の方の解説付きでの鑑賞「ギャラリートーク」が大変有意義でしたので、今回もと思ったら、全て平日の金曜日開催。4月27日の日曜日だけが、所蔵元の大阪市立東洋陶磁美術館の主任学芸員の方(小林仁氏)のゲストトークという、願ったり叶ったりでの午前午後2回の各先着20名とのことに、勇んで早めに美術館へ。

 因みに、なぜ大阪の市立の美術館が陶磁器専門の美術館(しかも国宝・重文を含む逸品揃い)を持っているかと言うと、あの安宅コレクションを引き継いだ住友Gが市へ寄贈したものだとか。

 さて、早めに着いて集合のアナウンスまで少し時間がありましたが、結局集まったのは20人弱でしょうか、勿体ないことです。でも、お陰でゆったりと伊万里の歴史や展示品の解説などのお話を伺いながらじっくりと眺めることが出来ました。勿論限られた時間ですので、展示品全部は無理で、終了後にもう一度、お話しを思い出しながら一品毎にしっかりと味わうことが出来ました。

 ところで良く陶磁器と言いますが、これは土で焼いた器の総称。瀬戸モノに代表される粘土を焼いたものが陶器で、ガラス質の多い磁土を焼いたものが磁器。日本での最初の磁器は、秀吉の朝鮮出兵に同行した佐賀の鍋島藩主が朝鮮から多くの陶工を連れ帰り、藩内の有田で磁土を発見し焼いたのが始まり(1610年代)とか。ただ朝鮮半島では青磁・白磁が中心なので、染付技法は中国から直接もたらされたのだろうとのこと。土器も陶器の一種ですので、伊万里や九谷など、日本での磁器の歴史は陶器に比べれば遥かに新しいことになります。
景徳鎮に代表される中国磁器(英語でも磁器はchina)が、明が滅び清になった混乱で、一時期海禁政策が採られ、その需要を埋めるために東インド会社から有田に大量注文が入ったことで、1660年代以降、日本の磁器が飛躍的に成長拡大していったのだそうです。有田で焼かれ、伊万里(港)から積み出されたことで、伊万里焼と呼ばれることになったのだとか(因みに、浮世絵が海外に知られるようになったきっかけは、輸出磁器の包装紙だったというのも興味深い)。
なお、近世に入り鉄道輸送網の発達で有田焼・伊万里焼と実際の産地で区別して呼ばれるようになったことから、江戸時代までの伊万里焼を区別するために「古伊万里」と呼ばれることもあるそうです。TVの「鑑定団」だけでは分らぬ“ナルホド”でした。
 景徳鎮の代替品として欧州の王侯貴族の注文を受けて、当初は依頼に沿って景徳鎮を模倣するだけだったのが、柿右衛門様式などの開発により、やがて日本独自の染付や文様が施され人気を博し、その後輸出が再開された景徳鎮もそれを逆に模倣(チャイニーズ・イマリ)し、また東洋以外で初めて磁器の生産に成功したマイセンもそれを模倣。シノワズリからジャポニズムへというブームの変遷にも似て、時に漆の蒔絵を施すなど豪華絢爛さを誇っても、その後は中国の圧倒的な生産力に対抗出来ず、コストで負けて衰退をしていくなど、何だか歴史が繰り返されている感を持ちました。
また、宮殿の四方の壁一面に埋め込まれた「磁器の間」に代表されるように、海外の展示では何点もケースに一緒に並べて展示されるのに対し、日本での展示は対で対比して展示するように、“一品を愛でる”という民族の美意識の違いのお話も、「古池や・・・」の句で、欧米人は池に飛び込む何百匹もの蛙を連想するという話にも似て、大変興味深いものでした。

 それにしても、何とも柔らかな乳白色(乳白手=にごしで)の柿右衛門の“白”に魅せられました。実物を見比べてみると、他の青味がかった白との違いは一目瞭然です。この白だからこそ、赤や緑も一層映えるのでしょう(お話によると、今回展示されていた東洋陶磁美術館所蔵の柿右衛門様式の相撲人形よりも色目の落ちる相撲人形が、数年前のオークションで一億円で落札されたとか・・・)。

 初期伊万里の青の染付に始まり、重要文化財(サントリー美術館蔵の色絵花鳥文八角大壺)を含む190点(展示室へのアプローチには、これらとは別に、松本城三の丸跡から発掘された伊万里焼も参考展示)という、年代別に区分けされた展示品を鑑賞しながら、
 「何だか、ウチにも似たような感じのお皿とか、無かったっけぇ・・・?」
 「うん、何となくそんな気もするよネェ~!?」
ま、そんなことがある筈も無いのですが・・・。
しっかりと目の保養になりました(その後中年カップルは、今度はお腹の保養に何故かマクドへ・・・?)。
【追記】
草間弥生さんに因んだ、構内の赤い水玉のデコレーションが、以前に比べて何だかパワーアップしていました。