カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>

 もう10年以上も前のことです。
その年の冬も、前年に続き100年振りとも50年振りとも言われた大雪が松本地方に降りました。そのため除雪が間に合わず、市内の幹線道路は何とか除雪されても、脇道は長い間凍結したままでした。

 そんな2月のこと。いつものように早朝チロルを連れて凍った道に足を取られながら散歩をして家に戻ると、急に隣家の陰から庭に放し飼いにされているお隣の犬がチロルに向かって来て吠えたのです。驚いたチロルも向かって行こうとしたため、急に引っ張られて氷に滑って見事に転んで足首を骨折してしまいました。(骨折した家内のことを先日ボロクソ書きましたが、斯く言う私メもその昔・・・。でも隣の犬が悪い!)そして、2ヶ月近く松葉杖の生活になりました。

 その間、業務の都合で手術入院中を除きどうしても休めず、松本駅まで父に送ってもらって(迎えは当時上諏訪駅にエレベーターが無く、降りの階段が危ないため、毎日上諏訪の会社まで家内に迎えに来てもらいました。深謝!)の松葉杖での通勤(しかも特急に乗って、上諏訪駅からは毎朝タクシーです)が2ヶ月近く続きました。
      
 そんな“通勤”が始まったある日のこと。
エレベーターがある西口(現アルプス口)のホームを歩いていた時、改札を出る通勤・通学客の中の一人の若い男性が、すれ違う時にいきなり私に向かって、「大丈夫ですかぁ?頑張ってくださぁい!」と大きな声で励ましてくれたのです。そして、その“励まし”は松葉杖が外れるまでの2ヶ月の間、毎朝続いたのでした。

 そして漸く松葉杖が取れ、朝いつものようにホームですれ違った時、「おはようございます!」と言う私の声に、彼は全く応えることもなく素知らぬ顔をしてそのまま通り過ぎて行ってしまいました。翌日も、その次の日も無視したままで・・・。
       
 その若い男性は、知的障がい者の方でした。
後で分かったことは、北松本にある某企業の障がい者の方々が働く「特例子会社」に木曽から通われていて、大糸線の乗り継ぎが不便なため、松本駅から北松本まで毎日歩いて通っていたのです。

 後日、偶然にその「特例子会社」を見学する機会がありました。
責任者の方から会社のご説明を伺った後、もしやと思い駅での話をしたところ、「あっ、それはきっとウチのN君だ!」
そして、その職場に連れて行っていただくと、紛れも無く「あの彼」でした。
話し掛けてお礼を言っても、当のNさんはキョトンとしたまま。

 責任者の方のお話によると、彼等は自分達よりも“弱い人”に対して、本当に優しいのだそうです。
そして、その優しさが当時“弱者”であった私への励ましであり、その後“弱者”で無くなった途端、その私への励ましは不要になったのでした。
そんな純粋無垢な彼等は、誰彼と無く話し掛けるため、通勤の電車の中では気味悪がられて避ける人も多いのだとか。

 そんな“心優しき人たち”にすれ違う時は、せめて私も「頑張ってください!」と心の中で声を掛けています。