カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>

 三年くらい前だったか、通勤途中に聞いているNHK-FMの「きらくにクラシック」(きらクラ)の中で紹介(しかも視聴者の方から)されて初めて耳にした曲。アルヴォ・ペルト「鏡の中の鏡」。中世のグレゴリオ聖歌にも似た、(おかしな例えですが)誰も居ない雪原に差し込む光の様な“無音”の世界。心が洗われる様な、不思議な感覚でした。
調べてみると、中世どころか、1935年エストニア生まれの現代の作曲家。
但し、聴いた印象は“当たらずしも遠からず”で、僅か7歳から作曲を始め、その後現代音楽の“袋小路”に迷い、そのため西洋音楽の基礎となったグレゴリオ聖歌や多声音楽に回帰して、「ティンティナブリ様式」(錫の鳴るさま)と云う境地に至ったのだそうです。我が国でも2014年高松宮殿下記念世界文化賞も受賞するなど、世界的にも知られた作曲家なのだとか。
現代音楽に疎いせいもありますが、その時まで全く知りませんでした。You Tubeでも聴けますが、市立図書館にも無いので、ずっとCDを購入したいと思っていました。

 半年ほど前、本ブログへのコメントで教えていただいたイザベル・ファウストのCD(バッハの無伴奏Vn.曲集。再販)をタワーレコードにネット予約するに当たり、欲しかったアルヴォ・ペルトのベスト盤も一緒に購入しようと思い注文しました。そのCDは1300円の廉価版扱いで、しかも2枚組。冒頭の「鏡の中の鏡」は勿論、室内楽曲や管弦楽曲(同じエストニア出身であるP・ヤルヴィが振っています)のみならず、合唱曲も収められています。しかし、タワーレコード側も2ヶ月近く探してくれたのですが、結局在庫無しとの回答があり入手出来ませんでした。

 そこで、9月に都響のコンサートを聴きに日帰りで上京した折、在庫2万枚で我が国最大級と云う中古CDショップ「ディスクユニオン・クラシック館」に行って探して(現代作曲家のコーナーに、輸入盤も含め6枚程度しかありませんでした)みましたが、残念ながらお目当てのCDは無かったものの、「ティンティナブリ様式」へ転換後の作品を集めた『アルボス《樹》/アルヴォ・ペルトの世界』と題されたCDがあったので購入して早速聴いてみました。因みに、演奏者は楽曲により管楽器や声楽アンサンブルなど異なりますが、同じバルト三国のラトビア出身であるギドン・クレーメル(Vn)も参加しています。

 CDの冊子を開くと、冒頭に、
-“The temple bell stops but the sound keeps coming out of the flowers”  Basho -
 「鐘消えて 花の香は撞く 夕べかな」 (芭蕉)
と提示されていました。

 その音楽は、正に中世のグレゴリア聖歌を彷彿とさせます。それが「ティンティナブリ様式」と名付けられたアルヴォ・ペルトの独特の世界です。因みに「ティンティナブリ」というのは日本語で「鈴鳴らし」と解説されていましたが、鈴の音の様に自由でシンプルな旋律を繰り返し反復する作曲技法を作曲者自身が名付けたのだとか。
冒頭に暗示的に置かれた芭蕉の句(ネットで調べてみると、『鐘の音という聴覚と花の香りという臭覚が同時に成立する=例えば音が色や香りに姿を変えて感じられる「共感覚」という特殊な才能』と解説している評論もありました)ではありませんが、おかしな言い方ですが“静寂の音楽”とでも言える様な、そして、もしそれを“癒し=Healing music ”と呼んでしまっては余りに軽薄な感じすら抱かせる、敬虔で深淵な何とも不思議な世界が拡がっていました。