カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>

 12月20日の日曜日。マチネーでのコンサートがザ・ハーモニーホール(松本市音楽文化会館。通称「音文」)でありました。音が良いことで有名なホールですが、大ホールは800席足らずのため、大編成のオーケストラコンサートは殆ど県文化会館や市民芸術館などで開催され、ここ音文でオケを聴くのは多分20数年振りで、モーツァルテウムの来日公演以来です。(友人にチケットを取ってもらって東京まで聴きに行き夜行で帰ってきた)若い時ほど、コンサートに行く機会も(意欲も)ありませんが、本当に聴きたい演奏会(プログラムと演奏家)は少し無理をしてでも年に一度くらいは生で聴きたいもの。

 昔から(プロアマ問わずどんなコンサートでも)開演前のざわめき、そわそわしたロビーの喧騒が好きで、さながらオペラの序曲のように次第に期待感と緊張感が高まっていくような気がします。

 オーケストラアンサンブル金沢(略称OEK)は、プロの室内オーケストラとして89年に創設され今年で20周年とか。今は亡きマエストロ岩城宏之氏が音楽監督として手塩にかけて育て上げたオケです。この日の指揮は女優ミムラ嬢の旦那さま金聖響(指揮者に相応しいお名前)、ソリストにCMでもお馴染みの村治佳織で、ロッシーニの序曲「アルジェのイタリア女」に始まり、アランフェスとベトナナのプログラムです。ベトナナは、現音楽監督井上道義の指揮でCDにもなっていますので、OEKの十八番(おはこ)でしょうか?(偶然、リンゴ作業中FMで放送されました)

 会場はSold outで超満員の盛況。もしかしたら聴衆のお目当ては村治佳織?・・・確かにCM通りお美しい方でした。
 OEKは総勢40人という2管の小編成ながら、創設時は旧ソ連系亡命音楽家が多く“スラブの香りがするオーケストラ”と言われたという評判通り、艶やかなストリングスと共に厚味のある響き。第1・第2ヴァイオリンが左右に正対する古典的配置で、右に低音部というステレオ録音に慣れた耳には少し戸惑いを感じつつ始まったロッシーニの序曲も聴き応えのある演奏でした。アランフェスはブラボーの声も飛びましたが、「う~ん」こんなものでしょうか?
(写真はこの日の休憩中のザ・ハーモニーホールの様子です)
 さて、休憩を挟んだこの日のメイン、ベートーベンの交響曲第7番。
金聖響の指揮は、左手が雄弁に音楽を語りながら真剣勝負のような緊張感溢れる指揮振りで対峙し、見事なディナーミクでオーケストラをドライブしていきます。少しゆったりしたテンポの第一楽章から始まり、あっという間の45分間でした。艶やかなストリングスのみならず2管とは思えぬほど充実したブラスセクションとこじんまりしたホールの響きの良さと相俟って小編成を感じさせないスケールでの感動的演奏でした。偶然?前日の『のだめ』の放映と連夜の強制的CD試聴の効果もあってか、奥様も感動のご様子。
 カーテンコールも含め、何度もかかるブラボーの声が(賛否両論ありますが気持ちは良く分かります)、その日の我々聴衆の気持ちを代弁してくれています。
アンコールは、何と『信濃の国』。この日は、松本と金沢の文化・観光交流都市協定締結記念コンサートと銘打った演奏会だったからでしょう。聴いた記憶の無い導入部からお馴染の主題が奏でられると、自然発生的に拍手がおきました。地元聴衆への思いがけないクリスマス・プレゼントでした。

 パンフによれば、シンフォニーホールで今年の春から来年2月までかけて、同じコンビで計5回のベートーベンの交響曲全曲演奏会が進行中とのことで、この12月13日に第九が演奏されたばかりとか。いいですね、都会にいると。また、こうしたレジデント・オーケストラを持つ金沢の人たちが羨ましくなりました。室内オケのもう一つの雄、水戸室内管弦楽団は偕楽園の水戸徳川家。片やOEKは兼六園の前田家百万石、いずれも豊かな文化の蓄積が感じられます。

 外に出ると夕闇迫る松本は、アルプス颪の冷たい風の中。でも心の中は、北アルプスの向こう側からやって来た熱い演奏に、家内と二人「うん、良かったね!」と胸一杯でホールを後にしました。