カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>

 第497話でご紹介した、平松洋子女史の食のエッセイ『おとなの味』。
その中で、「子供の頃食べてちっとも美味しいと思わなかったのが、大人になってみると、時々ふと食べたくなることがある。」というような件(くだり)があり、「確かにそうだなぁ」と頷きながら、私の頭に浮かんだモノ-それは、今は亡き明治生まれの祖母が作ってくれた「身欠きニシンの味噌煮」でした。

 父や祖父と一緒にリンゴ園で朝から晩まで作業する母に代わって、祖母が食事の支度をしていましたが、その中で作ったであろう身欠きニシン。
長い時間水に漬けて戻し、5cmほどの大きさに切って、味噌と砂糖でじっくりと弱火で甘辛く煮付けたもの。我家では醤油ではなく、決まって味噌味でした。もしかしたら、生姜も臭み消しに入れていたのかもしれません。小さかった頃はまだ茅葺屋根の大きな家で、煤けた台所の囲炉裏に掛かった大きな鉄鍋が思い出されます。
ただ、身欠きニシンは小骨が多く硬くて食べ辛いし、子供心には決して美味しいとも思わず、よっぽど「味りん干し」(さんまかなぁ?)の方が子供は好きだった(但し早く食べないとすぐに硬くなってしまいます)ように思います。

 でも、年をとってみると、噛むほどに旨みを閉じ込めた身欠きニシンが、何十年も前のおぼろげな舌の記憶と共に、
「美味しかったなぁ・・・」
と呼び起こされて、無性に食べたくなる時があります。一日の農作業を終えて、それを肴に晩酌をしていたであろう祖父や父を想うと、
「きっとお酒にも合うんだろうなぁ・・・。自分で作ってみようかなぁ・・・?」

 ところが、そんな雰囲気を察したのか(きっとブツブツ言ってたんでしょうね)、何も言わないのに家内が珍しく身欠きニシン(硬いのではなく、水で戻さなくも良い柔らかな生干し)を一尾分買って来て、Cock Padを参考に味噌味での煮付けに挑戦してくれました。ありがたや。

 味噌と味りんにお砂糖を少し加え、生姜を二欠片。コトコト煮詰めます。
待つこと暫し・・・。
「まだ早いかもしれないけど、ちょっと味見してみてヨ」(家内は今まで食べたことなし)
うーん、何だかお店で食べるように洗練されていて、お婆ちゃんのそれはもっと田舎っぽい味だったような気がします。
多分、昔は自家製(年末になると地区毎に農家の叔母ちゃんたちが総出で、皆家で作った大豆を持ち寄っては、多分蒸さずに煮て潰し、たくさんの味噌玉を作っていました)の田舎味噌だったのが、家内はこのところ(以前味噌汁を誉めたので)割りと高級な無添加の赤味噌を使っているのが違うかもしれません。
でも、美味しかったです。いや、カタジケナイ。でも、一尾ってこれしかないんだ。勿体無いので、お酒の肴として小出しに大事に食べています。
・・・とすると、お婆ちゃんは大きな鉄鍋に一杯作っていましたが、一体何尾分の身欠きニシンを戻していたのでしょうか?今では高級魚で結構な値段ですが、その昔はニシンを畑の肥料にしたほどたくさん獲れたそうですから、あの頃はまだ安かったんでしょうね。
      
 しかし考えてみれば、今や家庭の味もCock Pad から。うーん、“昭和も遠くなりにけり”でしょうか。

 そして、初挑戦での好評に気を良くしてか、はたまた大事に大事にチビチビと食べる私メを憐れんでか、その後も何度か作ってくれました。
いつもCock Padレシピの味噌味です。でも、最初の頃感じたような個々の調味料の“尖った角”が取れ、大分馴染んできて、何となく昔の“お婆ちゃんの味”に似てきたような気がします。これが我が家の“平成の味”になりました。

 今回も、やはり水で戻さなくても良い生干しですが、二尾分をまとめて作ってくれました。ムフ、大事に食べよ!っと。